「賃上げする」企業42% 異例の政府圧力が奏功か…アベノミクスの行方に海外注目
春闘のシーズンを控え、アベノミクスの成否を左右すると言われる賃上げの動向が海外メディアを賑わせ始めている。ロイターが主な日本企業に行ったアンケート調査によると、42%が賃金を上げる予定だとし、44%が「未定」と答えた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)、ブルームバーグも、安倍首相の動きなどと共にこの問題を伝えている。
◆気になる自動車業界の消極的な動き
「今年の賃金交渉の結果は、アベノミクスの成否に決定的な影響を与えるだろう」(WSJ)。海外メディアの多くは、特に日本全体の賃金の流れを作ると言われる春闘に向けた動きに注目する。昨年は15年間で最高の平均2.19%のベースアップという結果になったが、日本労働組合総連合会(連合)は今年、1998年以来最高の4%を目標に掲げている。
一方、経団連の榊原定征会長は、各企業に昨年並みの賃上げを期待していると述べている。また、野村證券は19日、若手社員の基本給を2.3%上げると発表。富士通、セブン&アイ・ホールディングス、商船三井などの大手企業も賃金を上げる方針を示している(WSJ)。ロイターのアンケート調査では、483社の調査対象のうち、42%が賃上げをすると答えた。その内訳は、36%が昨年並みの上げ幅を予定しており、6%が昨年よりも少ない上げ幅となるとしている。また、「賃金は上げない」と答えたのは8%で、44%は「未定」だとした。
ロイターの調査結果を見たみずほ総合研究所のシニアエコノミスト、徳田秀信氏は、「多くの企業は慎重な姿勢を見せている。全体の流れは『未定』の44%の動向で決まるだろう」と見解を述べた。また、同調査では、自動車業界に限れば30%が昨年よりも少ない上げ幅を予定しているか、全く上げないと答えている。これは全業界平均の2倍という消極的な数字だ。自動車業界の動向は他業種の指針になるだけに、徳田氏は、「消費税増税の打撃を受け、慎重姿勢を見せている自動車業界の動きが心配だ」とコメントしている。
◆「究極のゴールはまだ遠い」
一方、安倍首相と黒田日銀総裁は、特に今年に入り、再三に渡って企業に賃上げを要請している。WSJは、安倍首相の今年最初のゴルフの相手が経団連の榊原会長で、早速その話を持ちだした事や、黒田総裁も日銀総裁として初めて経団連の新年会に出席した事を伝えている。
これに対し、企業側も大筋で協力する意向だと同紙は見ているようだ。「安倍首相の賃金交渉への介入は、自由経済ではあまり例のないことだ。しかし、それを公に非難する声は少ない。エコノミストたちは、デフレ脱却のためには、停滞した賃金を大胆に上げる動きが必要だと見ている」と記す。日銀が目標に掲げるインフレ率2%達成の成否も、賃金上昇にかかっていると、関係者は語っているという。
しかし、昨年並みの上げ幅ではまだまだ足りないという見方も強いようだ。先の調査結果を伝えたロイターの記事も、「消費税増税により実質賃金は下がっている」と記す。調査を分析した識者の一人は、「デフレ脱却に向けて前進している」としているものの、「物価と賃金が上がり、消費者需要を押し上げるという有益なサイクルを作り出すのがアベノミクスの究極のゴールだ。それにはまだ遠い」と述べている。
◆塩崎厚労相「企業の競争力回復が賃上げの鍵」
塩崎恭久厚労相は、賃金上昇について、21日にブルームバーグのインタビューに答えている。塩崎厚労相は労働行政の責任者としての立場から、「なぜ賃金が上がってこなかったのか、原因をよく考えていかないといけない。産業競争力を失ってきたからだ」と指摘。賃上げするには「企業が収益力を高める、それは取りも直さず産業競争力の回復だ」と述べ、これこそがアベノミクスの「第3の矢」で最も大切なことだと語った。
そして、競争力の回復には産業構造の大転換が必要だとし、労働生産性の高い産業へと「労働移動をやりやすい社会・経済に変えていかないといけない」と述べた。また、そのためには、「イノベーションを起こす力や人材や教育、英語力」など様々な要素が、競争力回復のインフラとして必要になると持論を語った。
ブルームバーグの予想調査によると、市場関係者は来年度の所定内給与は0.6%、実質賃金は0.15%にとどまると見ているという。これに対し塩崎厚労相は、政府として「数値目標は掲げていない」と述べている。