【特別編】海外紙は衆院選をどうみているか?
1.自民党・民主党の違いは?
まず、自民党の安倍総裁が、日銀に対し強硬な発言を行っていることが注目されている。実際、党の公約でも、2%の物価目標を定め、日銀法の改正に触れたうえで、大胆な金融緩和を行うと明言している。こうした中、市場は円安・株高の傾向を示している。
一方民主党は反対の姿勢であり、野田首相は、所得や雇用増につながらない経済政策は意味がないと批判した。マニフェストの中でも、エネルギー・医療など成長分野での雇用増を推進することを強調した。
その他の大きな違いとしては、自民党の原発推進に対し、民主党は2040年迄に原発稼働ゼロが目標であること、自民党はTPPに慎重な姿勢に対し、民主党はTPPなど経済連携に積極的な姿勢であることだ。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ムダづかいを見直し国民に還元する具体的な額を提示した前回マニフェストに比べると今回のものは魅力に欠けると評価している。マニフェストの内容がパッとしないのは、与党が有権者に現政策を訴えると同時に、前回のマニフェストを実現できなかったことを陳謝することの難しさがあらわれているとみている。実際、野田首相は政策の失敗を認め、新しいマニフェストはこの3年間で学んだ自己反省と教訓に基づいて“現実的”につくったと強調した。
2.「卒原発」新党の影響は?
卒原発を掲げる新党、「日本未来の党」が発足した。原発への強硬姿勢で知られる嘉田滋賀県知事のもとに、小沢一郎氏が率いる「国民の生活が第一」などが合流する見込みだ。
62歳の嘉田氏は記者会見で政党編成の発表を行い、経済的観点だけで原発を推進するのは倫理的に受け入れられないと述べた。「卒原発」が6つの政策目標の1つであり、他には中央銀行の官僚体制への依存の見直し、増税以前の無駄な財政支出削減などである。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、同党が、民主党も自民党も原発の段階的廃炉を明確に打ち出さない総選挙で、反原発を重要視する有権者に選択肢を提供すべく結成されたとみている。東京で週に1度行われている反原発集会のような草の根運動が政治に反映されるよう、新党が援助してくれることを期待している声もある。ただ、今年初め、嘉田氏は自身の県の近くにある大飯原発の再稼働を阻止しようとし、失敗に終わっていたことにもふれている。
また同紙は、橋下氏が率いる新党「日本維新の会」が、先日、原発依存脱却に慎重な姿勢に変化したことを指摘。「第三極」である小政党どうしの違いも明らかになってきているとした。
3.ナショナリズムは弱さの表れ?―ジョセフ・ナイ教授の寄稿―
米国の知日派の代表格である、ジョセフ・ナイ・ハーバード大教授(元国防次官補)は、28日の英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿した。
日本の世論が右傾化し、ナショナリズムが台頭しつつあると現状を分析。具体的には安倍総裁の強硬発言や石原元都知事の尖閣購入発言など、中国政府が警戒を強めていることを指摘。中国側の、(尖閣購入は)第二次世界大戦終戦後に締結されたカイロ・ポツダム宣言からの逃げ道だという主張を取り上げている。ただ、中国のように、日本が軍国主義に戻るというような過度な煽りは非現実的だと批判した。
真の問題として、日本が弱体化し“内向き”になりすぎることを懸念。国際社会で積極的な役割を果たさず、二流国に甘んじるのかと痛烈なメッセージを投げかけている。
原因としては、ここ20年間の低成長により積み重なった、財政問題や若年層の引きこもり増加を挙げた。こうした現状を変えたいという若い政治家がいることは評価しつつも、不安定な政治に左右されてしまう現状にも言及した。
最後に、中国の過激なナショナリズムが台頭し、日本が呼応して互いを煽ることで、周辺のみならず世界にも有益な今の繁栄を保てなくなるような情勢を作り出すことが危険だと警鐘を鳴らした。