“水より安い”ガソリンで、隣国の食料品を密買 南米ベネズエラ、経済危機の実態

マドゥロ大統領

 南米の産油国ベネズエラの経済が、危機的状況だ。食料品不足など、国民生活にも悪影響が及んでいる。こうした苦境、対策としての隣国コロンビアとの密貿易などを南米メディアが報じている。

◆食料品不足が日常茶飯事に
 昨今の原油安が、ベネズエラの経済苦境の原因だ。原油は同国の外貨獲得の90%を占める。ただ、そもそもの背景には、チャベス前政権時のボリバル(社会主義)革命がある。同政権は、政府に不満を持つ大手企業を国営化し、価格統制で利潤追求を否定し、物価上昇を抑えた。その結果、事業を放棄する経営者が相次いだ。

 生産業者の減少により、同国は食料品の70%を輸入に頼っている。しかし昨今の原油安による外貨不足で、必要なだけの輸入ができなくなっている。最近は穀物、野菜、果物なども不足している。スーパーの前には長蛇の列が続き、入口では警官が警備にあたっている。こうした光景がどこでも見られる。

 ある主婦は、2人の女性がとうもろこし粉(日本の小麦粉に相当)の奪い合いで殺傷沙汰になったことを娘に語ったそうだ。また通行人のひとりは、列の中に母、娘、孫まで並んで割当より10倍の量を得ようと並んでいる、と言った(アルゼンチンのインフォバエ経済紙)。

◆隣国コロンビアとの 密貿易が盛んに
 このような事態になり、隣国コロンビア相手の密貿易が盛んになっているという。特に密貿易で潤っているのは、ベネズエラのサン・アントニオ市と、コロンビアのククタ市だ。両都市を結ぶ、全長315mのシモン・ボリバル橋が国境であり、物資売買のためベネズエラ側から橋を渡るのだという。なお沿道には、200の両替商がり、公式レート1ドル=6.3ボリバルに対し、1ドル=175ボリバルといった闇レートで取引されている(アルゼンチンのラ・ナシオン紙)。

 もちろん、この橋を往復するには、両国の検問所で、検査の警官や軍人への賄賂が必要になる。ここで得る収入が給料より高額になることが、往々にしてあるという。ベネズエラ側では、検問は1ヶ所に定まっている。コロンビアの検問所では一定率の金額を払うが、その300m先でまた検問がある場合も、時にあるそうだ (コロンビアのインフォルメ21デジタル紙)。

 しかし、密貿易の取締りという名目で厳しい検査が行なわれる場合もある。昨年8月には、わずか1週間で、食料品96トンとガソリン30万リットルが摘発された。これは2013年の摘発分に相当する量だという(コロンビアのポルタフォリオ紙)。また同月から、密貿易規制のため、夜10時から翌朝5時まで、橋は通行止めになった。両都市の恋人同士もこの門限を守らなければならなくなった、というエピソードもあるそうだ(アルゼンチンのラ・ナシオン紙)。

◆石油を売って食料品などを買う
 最も売れる商品は、“世界で一番安い”とされる石油だ。ミネラルウォーターより安い。ベネズエラでは0.018ドル/リットルのガソリンが、コロンビアでは1.13ドル/リットルで売れる(アルゼンチンのラ・ナシオン紙)。

 コロンビアのタクシー運転手の中には、ベネズエラ側で詰めたガソリンを、帰りに必要な分だけ残してコロンビアで売る者もいるようだ。燃料容器にガソリンを入れてバイクに積み、日に何度も往復して商売にしている者もいる。国境から600km入ったメデジン市や首都ボゴタ市までガソリンを持ち込み、ガソリンスタンドで売る大胆な者もいるそうだ。もちろん、彼らは検問所での賄賂を忘れない(以上、同紙)。

 ベネズエラ国内で消費されるガソリンは、70万バレル/日と言われる。しかし、そのうち10万バレルは密貿易でコロンビアに運ばれているという。これは年間1億ドル(118億円)分に相当するそうだ(コロンビアのインフォルメ21デジタル紙)。

◆薬の不足も深刻
 シモン・ボリバル橋を渡り、コロンビア側に30mも入れば、1500~2000もの業者が商材を販売しているそうだ。どれもベネズエラ国内で不足している物ばかりだ。利益率は100~200%にもなるという。中には薬もある。ベネズエラで需要の高い薬は、解熱効果がありデンゲ熱やチクングニア熱の治療に使われる、アセトアミノフェンだ(以上、アルゼンチンのラ・ナシオン紙)。

 薬不足は深刻で、今月も首都カラカスの総合クリニック病院で3人が亡くなったという。昨年11~12月でも13人が亡くなっている。今月5日からは心臓手術が中止となった。2007年、外科手術は450人に行なわれたが、昨年はわずか97人だったという。医師は「抗生物質もない、レントゲンも使えない、研究室も使用不能、鎮痛剤もない」と、危機的状態を訴えている(スペインのabc紙)。

 ベネズエラでは、マドゥロ政権の不支持率が75%にもなっている(アルゼンチンのラ・ナシオン紙)。同国メディアや米国民間情報機関の中には、政変の可能性を示唆するものもある。

Text by NewSphere 編集部