カテランの『バナナ』を9.7億円で落札、中国出身クリプト起業家の意図とは
イタリア人アーティスト、マウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan
)による、バナナとダクトテープの作品『コメディアン』が、サザビーのオークションにて624万ドル(9.7億円)で落札された。改めて注目される、カテランの作品を入手した落札者の意図とは。
◆高値で落札された『コメディアン』
11月20日に開催されたサザビーのオークションで、カテラン作品『コメディアン』が高値で落札されたことが話題を呼んでいる。銀色のダクトテープで白い壁に貼りつけられた本物の黄色いバナナで構成されるコンセプチュアルアート作品は、2019年12月にアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで発表され、コンテンポラリーアート業界を超えて世界に衝撃を与えた。作品の一部である本物のバナナは、会期中にパフォーマンス・アーティストのデービッド・ダトゥナが食べ、さらに話題を呼んだ。
カテランは過去にも風刺要素を持ったアート作品を展開してきた。2016〜17年に、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で開催された個展では、18金でできた本物のトイレを制作し、『アメリカ』という題名で発表した。現在、ストックホルムで開催中の個展では、レッドカーペットの上に隕石で打ちつけられたローマ教皇ヨハネ・パウロ2世の像が横たわる『ラ・ノナ・オラ(La Nona Ora)』を発表。イタリア語のタイトルは、キリストが息を引き取った時刻とされる第9時の意味だ。
マイアミで販売された『コメディアン』は、3エディションとも売り手がついた。2つのエディションは個人コレクターが12万ドルで購入し、3つ目のエディションについては、それよりも高いとされる非公表の価格で売却され、その後グッゲンハイム美術館に寄贈された。今回、オークションを実施したサザビー側は、落札価格は100万から150万ドルになるであろうと予測しており、開始価格は80万ドルを設定した。結果、その予測を大幅に上回る624万ドル(9.7億円)で落札された(CNN)。
◆話題作りに長けた起業家
今回のオークションで『コメディアン』を落札したのは、中国出身、香港在住のクリプト起業家、ジャスティン・サン(Justin Sun)。サンは9.7億円の対価として、生のバナナ、ダクトテープのロール、作品証明書、インスタレーションガイドを手にした。
落札から約1週間後、記者会見を開き、「9.7億円バナナ」を食べてみせた。「この作品は、何がアートか、何がアートの価値かという問いを考えさせる象徴的な存在。(中略)自分がバナナを食べることで、このアート作品の歴史の一部になりたいと考えた」とコメント。さらには、イーロン・マスクに連絡して「バナナ」を宇宙に打ち上げたいとも語った。
ブロックチェーンのOSであるトロン(Tron)を2017年に創業し、2021年までCEOを務めたサンは、これまでも話題を呼ぶような行動を起こしてきた人物。2019年には、チャリティー・オークションにおいて、クリプト反対派の投資家ウォーレン・バフェットとランチをする権利を457万ドルで落札。カリブ海の小国グレナダの市民権を取得し、2021年11月から2023年3月まで世界貿易機関(WTO)のグレナダ大使として外交の分野でも活動した。今年の10月には、仮想通貨国家を掲げる東欧の自称主権国家リバーランド(Liberland)の首相に任命された。さらにはドナルド・トランプのクリプト・プロジェクトである、ワールド・リバティ・フィナンシャルに3000万ドルを投じて、アドバイザーに就任した。一方で、アメリカ証券取引委員会(SEC)は2023年、トークンの取引量を人為的に水増しした証券詐欺の疑いで、サンと彼の会社を提訴している。
サンが食べたバナナはマンハッタンのフルーツ店で、1ドル以下で買われたもの。店のオーナーの時給は12ドルだ。ニューヨーク・タイムズの取材がきっかけで、サンはこの店から10万本のバナナを買うと約束した(ガーディアン)。
『コメディアン』は私たちが何に価値を見出すのかについての考察を表現した作品だとカテランは語っている。今回のオークションでは、アート市場におけるマネーゲームの要素が改めて浮き彫りになった。