急成長する人工ダイヤモンド 価格下落、抱える課題
人工ダイヤモンドの生産量の拡大とともに価格は下落。一方で、天然のダイヤモンドとして販売するなどの詐欺といった懸念も。
◆人工ダイヤモンド市場の拡大
合成ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンド(Lab-Grown Diamond:LGD)などとも呼ばれる人工ダイヤモンドは、炭素を含むガスなどを用いて人工的に合成したダイヤモンドだ。透明な見た目が似ているダイヤモンドと人工ダイヤモンドとキュービックジルコニアを比較すると、天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドの成分構成や硬さは同じ。その科学組成は炭素、結晶系は等軸(3本の結晶軸が互いに直交し、三軸の長さが等しい)、宝石業界で使われる硬さの基準「モース硬度(引っ掻き傷の強度)」は最高の10。光の屈折率や分散度もほぼ同等。人工ダイヤモンドには、天然ダイヤモンドと同じように、国際的な評価基準である4C(カット、カラット、カラー、クラリティ)の要素を用いた鑑定書が存在する。それに対して、キュービックジルコニアは、硬度や光の屈折率、耐久性の面でほかよりも劣り、鑑定書も存在しない。
人工ダイヤモンドは、2021年ごろから消費者の間で人気が出始めた。人工ダイヤモンドが成分や輝きにおいて天然ダイヤモンドに遜色がないという認識が浸透し、消費者が人工ダイヤモンドを受け入れ、2023年は「人工ダイヤモンドの年」であるとも報じられた。その年の9月、100ドル以下のチャーム付きブレスレットなど手頃な価格のジュエリーを販売するデンマーク発のグローバルブランド、パンドラが、ニューヨーク・ファッション・ウィーク中に人工ダイヤモンドの大々的なキャンペーンを打った。天然ダイヤモンドには手が出ない価格に敏感な消費者にとって、価格が安めの人工ダイヤモンドは魅力だ。
ジュエリー業界のアナリスト、ポール・ジムニスキー(Paul Zimnisky)によれば、2016年には約10億ドルだった市場規模は、2022年には120億ドルまで成長した。ダイヤモンドの採鉱・流通・加工・卸売会社として知られるデビアス・グループは、2018年に人工ダイヤモンドの関連会社ライトボックスを立ち上げた。
◆人工ダイヤモンド価格の下落の影響
需要が伸び、供給も増えることで人工ダイヤモンドの価格がさらに下落し、その市場シェアは天然ダイヤモンドに比べて拡大を続けているが、価格競争が激しく、収益性の面では課題がある。また生産においては中国やインドが競争優位という状況だ。昨年10月には、アメリカの大手人工ダイヤモンドメーカーの一つが倒産した。
さらには見た目が同じことを悪用され、価格の高い天然ダイヤモンドとすり替えられたり、マネーロンダリングのツールとして使われてしまったりする問題も発生している。
一方で、アメリカの主要メーカーであるダイヤモンド・ファウンドリー(Diamond Foundry)のように差別化に成功している企業もある。同社は早い段階から調査研究への投資を進め、独自の技術を持ち、シリコン半導体よりも優れた素材として注目されるダイヤモンド半導体の原料の製造も手がける。ジュエリー市場においては、45カラット以上の大きめサイズのダイヤモンドの製造に注力し、9割以上のシェアを持つ。
人工ダイヤモンド企業が輝き続けるためには、戦略の見直しと商品開発への投資が求められる。