米製長距離ミサイルは戦局を変えられるか? 米がロシア領内への使用許可

アメリカの長距離ミサイル「ATACMS」|Wikimedia Commons

 アメリカのバイデン大統領はウクライナに対し、射程約300キロのアメリカ製地対地ミサイル「ATACMS(アタクムス)」のロシア国内に対する使用を許可した。ロシアの重要施設が攻撃圏内に入ることから、ロシア側の戦費増大につながる可能性がある。しかし専門家からは、「決定が遅すぎた」「人員不足のウクライナでは、本質的解決にならない」との指摘も聞かれる。

◆数日内にも使用か
 ロイター通信は、ウクライナによる最初の攻撃は数日以内に行われる可能性があると報じ、ウクライナ側がすぐにでもロシア国内への攻撃にATACMSを使用するとの見方を示した。

 ATACMSは既存の兵器と一線を画す。AP通信はATACMSについて、「最大300キロの射程距離を持ち、ウクライナが保有するほかの多くの兵器の約2倍の射程を有する」と伝えている。

 報道では、バイデン大統領がウクライナに対し、まずはロシア西部クルスク州のロシア軍と北朝鮮軍への攻撃を許可したとされている。ウクライナは8月の奇襲侵攻以降、同地域の一部を確保したが、依然戦闘が続いている。

◆ロシアの戦費負担を増大させる
 ロイター通信は、ウクライナがロシアのクルスク地域で確保している拠点の防衛に寄与する可能性があるとの分析を取り上げている。フィラデルフィアの外交政策研究所のシニアフェロー、ロブ・リー氏は「ウクライナは最精鋭部隊をクルスクに投入しており、十分な弾薬と戦力の補充を受け続ければ、しばらくの間持ちこたえられるかもしれない」と分析している。

 また、英タイムズ紙によると、ATACMSはロシアの主要都市を攻撃圏内に収める。重要な空軍基地があるボロネジや、主要な海軍施設があるノボロシースクが含まれる。また、ロシアの製油所、工場、発電所も標的となり得るため、これらの防衛に追われるロシアの戦費が増大する可能性がある。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は「多くのメディアが、我々が適切な行動を取る許可を得たと報じているが、言葉は打撃にならない。ロケットが自ら語るだろう」と述べ、ATACMSの効果に期待を示した。

 今回の決定を受け、イギリスとフランスが長距離ミサイル「ストーム・シャドー」の使用をウクライナに追認する可能性もある。

◆長距離ミサイルは「特効薬ではない」
 ただし、タイムズ紙は、効果は限定的との見方を伝えている。リトアニアのランズベルギス外相は、「ウクライナが実際に何発のミサイルを保有しているのか分からないため、まだシャンパンを開けるような状況ではない」と指摘する。

 カーネギー国際平和財団上級研究員のマイケル・コフマン氏は、ロイター通信に対し「この(使用許可の)決定は遅すぎた。ほかの同様の決定と同じように、戦闘の行方を大きく変えるには遅すぎるかもしれない」との懸念を示す。

 米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」の軍事分析ディレクター、ジェニファー・カバナー氏は、AP通信に対し、「ウクライナが直面している最大の障害は、訓練を受けた即応可能な人員の不足であり、この課題はアメリカも欧州の同盟国も解決できず、世界中のどんな兵器でも克服できない問題だ」と指摘している。

 今となっては長距離ミサイルをもってしても、即座に形勢逆転することは難しいようだ。

Text by 青葉やまと