アベノミクス推進が「ハッピーなシナリオ」 海外紙は改革徹底求める

 第47回衆議院選挙が2日、公示され、12日間の選挙戦がスタートした。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)など複数の海外メディアは、今回の選挙をアベノミクスの信を問う事実上の「国民投票」だと報じている。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)も、識者の意見を交えながら、選挙と今後のアベノミクスの展望を論じている。

◆タオルを投げるのはまだ早い
 FTは、「安倍自民党の勝利」という選挙結果については、疑う余地はないとしている。問題はその程度であり、アベノミクスに対する信任を得たと判断できるレベルの勝利を得られれば、「2018年まで首相の座に留まるための新たな免罪符を得る事になる」と記している。

 CNNは、最近の景気予測が後退に向かっている事と解散総選挙の強行は無関係ではないと報じている。そして、FTなどと同じく、それでもアベノミクスを推進するか否か、「国民の審判」を得るための選挙だとしている。その上で、「多くのエコノミストの結論は、(アベノミクスをあきらめて)タオルを投げるのはまだ早い、というものだ」と主張している。

 英マクロ経済調査会社『キャピタル・エコノミクス』もまた、「日本の経済問題は解決にはほど遠いが、インフレとの戦いを放棄する理由はない」とする報告書を発表した。CNNはこの報告書を引き合いに、「安倍首相は、有権者が同じ結論に至ることに賭けている」としている。

◆最大の敵は経団連?
 WSJにコラムを寄せた日本の公益社団法人『会社役員育成機構』のニコラス・ベネシュ代表理事も、「アベノミクスの是非を問う国民投票」と、今回の選挙の枠組みを表現する。そして、世界標準の企業役員育成を目指す立場から、選挙後に予定されている「コーポレートガバナンス・コード」の制定に期待を寄せる。

 「コーポレートガバナンス・コード」とは、コーポレートガバナンス(企業統治)を強化するために企業が尊重すべき事項をまとめた「規範」のことだ。これを導入することで、企業経営に緊張感が生まれ、ひいては国の経済全体の収益率が底上げされるという。

 英国がその発祥とされ、現在、EU諸国やシンガポール、香港でも導入されている。23日に公表された政府の成長戦略の提言の中に、金融庁の監督のもと東京証券取引所がその日本版を制定するべきだという内容が盛り込まれた。ベネシュ氏は「これが適切な内容となれば、本当の意味での経済再生が進むだろう」と記す。同氏はこれに、アベノミクスの「第3の矢」が目指す“ビジネスの効率アップ”の具体策としての役割を期待しているようだ。

 ただし、ベネシュ氏は、日本で会社経営に携わってきた経験から、「日本の強力な経営団体は、しばしば重要な政策が実現する直前にそれを覆す裏取引をする」と警告する。ちなみに同氏は、「安部首相ら改革派の最大の抵抗勢力」に、経団連を挙げている

◆「ハッピーなシナリオ」が失敗すれば・・・
 FTは、「多くのエコノミストは、安倍首相は日本経済再生のために十分なことをやってきたと主張している」と記す。それらは、金融緩和、農業改革、法人税の引き下げ、先のコーポ―レート・ガバナンスの向上など、多くの施策が軌道に乗っているとの評価だという。

 しかし、同紙は「(アベノミクスの成功に)懐疑的な意見も多い。安倍氏の政策の多くには、既得権益への挑戦が求められている」とも記す。また、「経済が落ち込んでいる元凶が消費税増税なのは間違いない」(早稲田大学・若田部昌澄教授)、「ほとんどの国民はより貧しくなったと感じている。経済回復の実感はない」(古賀伸明・日本労働組合総連会長)といった、安倍政権の経済政策に批判的な意見も掲載している。

 FTは、選挙後の「ハッピーなシナリオ」は、「物価のゆるやかな上昇が賃金アップと消費の拡大、生産増に結びつくことだ」と記す。しかし、それに失敗すれば、「インフレが先細りとなり、成長が止まり、日本経済は再び安倍政権誕生前の不景気に戻る」としている。

Text by NewSphere 編集部