安倍政権延命で“デフレ脱却最大のチャンス” 選挙後のアベノミクス継続に英紙期待
12月2日告示、14日投開票の衆議院選挙に向け、海外メディアも今後のアベノミクスの展望を論じ始めた。これまでのアベノミクスの成果に批判的な報道も見られる中、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、解散総選挙は決してアベノミクスの終わりを意味するものではないと論評。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のコラムの一つは、「日本の景気は後退していない」と断言し、政策の継続を訴えている。
◆「今こそブレずに前進するべき」
FTは、今回の総選挙を「増税延期とアベノミクスに対して広く民意を問うものだ」としている。そして、安倍政権が歩む今後の道のりは、「より厳しくなったのは確かだ」と記す。賃金が物価の上昇に追い付いていない事や、憲法再解釈問題、原発問題、沖縄の基地問題なども支持率に悪影響を与えているからだという。
しかし、賃金アップについては、各企業で本格的な賃上げ交渉が行われる来春の春闘を待たなくては、安易にアベノミクスの成果を判定すべきではないとしている。その上で、現在優先すべきなのは、税制改革だとFTは主張する。特に、フルタイムで働くよりもパートタイムの方が税制上有利だという現状は、特に女性の労働参加を妨げていると指摘。また、大企業が溜め込んでいる内部留保金に課税して投資を促したり、ベンチャーキャピタルへの支援政策を実施するべきだとしている。
同紙は、解散総選挙は安倍首相の「計算づくのギャンブル」ではないかという見方もしている。アベノミクスの完遂に当初より時間がかかる見通しとなったため、野党のアイデアが乏しい今のうちに選挙を行い、安倍政権にあと4年を追加する“時間稼ぎ”だというわけだ。いずれにせよ、「日本が今も、デフレ脱却の最大のチャンスを迎えているのには変わりはない」と同紙は記す。そして、「今こそブレずに(アベノミクスを)前進させるべきだ」と主張している。
◆日本の景気後退自体が幻想?
『日本株式会社は後退していない』と題したWSJの経済コラムは、さらに一歩踏み込んで選挙の争点になっている日本の景気後退自体が幻想だという立場を取っている。
その根拠は、増税の影響があった後も引き続き株価が上がっていることや、円安による企業の輸出利益拡大に加え、道路・鉄道、電力といった内需中心の企業も利益を伸ばしていることなどだ。原油価格の下落も、日本経済にはプラスに働いていると記す。
同コラムは、消費税再増税の延期により、デフレマインドに陥った「消費者文化」と、投資をためらう「企業の先入観」の変革が「現実となるだろう」と論じている。また、好調な企業利益の今後についても、日銀が先月末に行った追加金融緩和で円安がさらに進んだことなどを理由に、「楽観視する根拠がある」としている。
◆アベノミクスに批判的な論調も
一方、選挙に向けた安倍首相の動静を伝えるWSJの別の記事は、「彼の経済政策の多くは裕福な大企業を助けただけだという批判が広がりつつある」「株価は安倍政権の2年間に急上昇した。しかし、極端な円安と消費税増税は労働者と地方住民を苦しめ、景気後退の引き金となった」などと、上記のコラムと同様の現象を捉えながら、逆に批判的な論調だ。
また、アベノミクスが掲げる構造改革について、自民党は選挙公約で農協改革以外の事には全く触れていないと批判。エネルギー政策についても、原発の扱いについて具体的な提示がないことを問題視している。
記事は、消費税増税延期にも批判的だ。増税延期で失われた税収なしに、2021年度までに財政再建を実現するという公約をどうやって守るのか。それに対して安倍首相からは「説明がない」としている。