“アベノミクス、選挙対策でぶらすな” 軽減税率、補助金…米紙懸念
安倍晋三首相は21日、衆議院解散を宣言、12月の14日に総選挙が行われることになった。きっかけとなったのは、17日に発表された第2四半期(7-9月期)GDPの対前期比率成長率-0.4%(年率-1.6%)という数字だ。大方の予想以上に悪く、アベノミクスの是非を問う議論が高まっている。また、海外各紙は、一般消費者の経済状況はいまだ上向いていない、それどころか貧富の格差が広がっている、と報じている。
◆日銀金融緩和策は悪例?
今のところアベノミクスの主な動力は、日本銀行による大規模な金融緩和と政府の財政刺激策だ。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙は、問題は、アベノミクスで得た利益は集中的なもので、却ってその痛みが国に大きく広がってしまったことだ、と報じた。
円安が進み、株価は上昇。大企業や、その株を持つ余裕のある人々は、十分な利益を得た。しかし、円安は輸入価格も大きく引き上げ、影響を受けた国内の中小企業は苦しんだ。失業率は過去10年余りで最低の数字を示したが、労働者の賃金上昇よりも早く、物価が上昇。4月の消費税増税はGDPに大きく影響し、2期連続でマイナスを記録した。
異例の金融緩和が富める者と貧しい者の隔たりを広げていると考える人々にとって、日本は、量的金融緩和策導入の悪い見本となっているようだ、と金融情報サイト『シーキング・アルファー(Seeking Alpha)』は報じている。
◆貧しい者はさらに貧しく
フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、アベノミクスの恩恵に預かるのは、いったい誰なのか、と疑問を呈している。同紙は、ある小売業者の、高級品を買う客は減らないが、安い商品は売れ行きが落ちた、との不満を伝えている。
安倍首相の経済政策により、大企業は、年に2度のボーナスを増額した。しかし、一般家庭の収入の伸びはほとんど見られない。逆に、円安と消費税増税による日用品の価格上昇で、打撃を受けている、と同紙は報じている。
特に非正規雇用者の実質賃金の下降は、株に特に関係のない人々にとって、株価の上昇で簡単に相殺されるものではない。金融緩和が進む限り、各家庭はさらに厳しい状況に直面するだろう、と『シーキング・アルファー』は報じている。
12月の選挙投票率は低いだろうと予想されている。だが、アナリストは、衆議院の安定多数を野党が脅かすことはないだろうとみているようだ。FT紙は、有権者の「自民党に投票する」「他に何ができる?」と諦めを含んだ発言を取り上げている。
安倍首相は21日、「人々が格差の広がりを感じていることは十分承知している」「しかし、全ての人の懐を暖める魔法のような経済政策というのはあるだろうか」(FT紙)と述べた。
◆短期の選挙対策は、長期の目標を遠ざける
安倍首相と政権は、対応を探っている。大きな打撃を受けた消費者や円安で苦しむ中小企業に減税や補助金の支給、地方にはより多くの予算を検討している。消費税の10%への引き上げも18ヵ月延期すること決定したが、実施の際には、食料品やその他の必需品は軽減する措置もありうるだろう、とWSJ紙はみている。
ただ、これらは全て、デフレを終わらせようと進めてきた安倍首相の積極策には反するだろう、と同紙は政治の舵取りの難しさを指摘。増税の延期と新たな支出により、財政健全化の計画を進めることが厳しくなるからだ。小さな企業への補助金などは、政治的アピールとして有効だろうが、経済効率と生産性上昇の目論見を後退させることになるだろう、と残念な選択でもあることを報じている。