豪首相、対日関係深化に“スピリチュアル”な熱意 首脳会談で潜水艦導入に進展か?
G20首脳会議が15・16日、オーストラリアのブリスベンで開かれる。14日現地入りした安倍首相は、16日にオバマ大統領・アボット首相と日米豪首脳会談に臨む予定だ。現地メディアなどは7年ぶりとなるこの3ヶ国による首脳会談に先立ち、日豪の潜水艦購入交渉や、中国に対抗する3ヶ国の軍事同盟などについて、その複雑な背景と共に今後の展望を論じている。
◆日豪首脳会談で潜水艦交渉が進展か
日本とオーストラリアは近年、特に安倍首相とアボット首相が就任して以降、軍事面での協力関係を強化してきた。中でも、オーストラリア海軍が次期主力潜水艦に、日本の「そうりゅう」型潜水艦の導入を検討している件が、雇用問題なども絡み、同国内で話題になっている。
オーストラリア海軍は現在、自国製のコリンズ級潜水艦6隻を所有しているが、老朽化に伴い、通常動力の潜水艦では世界最高峰の性能を誇るとされる日本の「そうりゅう型」に更新しようという動きがある。しかし、輸入に頼ることにより自国の造船業が打撃を受け、雇用が失われると、労働組合や野党が反発している。これを見て、ドイツ、フランス、スウェーデンなどの軍需産業が「オーストラリア国内での建造」を掲げてシェア争いに参入している。
3ヶ国会談に先立ち、安倍首相とアボット首相は、12日にミャンマーで開かれた東アジアサミットの場で会談した。豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドは、この会談を通じて、「日本の潜水艦購入に一歩近づいた」と報じている。アボット首相は会談後、潜水艦交渉については具体的なコメントを避けたが、日豪関係の深さを「スピリチュアルとも言える熱い口調で持ち上げた」と同紙は記す。潜水艦問題についても何らかの進展があったのではないかと見ている。
◆潜水艦問題はより複雑になっているとの報道も
一方、アジア太平洋地域の外交問題を扱うwebメディア『ザ・ディプロマット』は、潜水艦問題はさらに複雑さを増していると分析する。同メディアの記事によれば、アボット政権には今、労働組合、野党、与党の一部から、国内生産を掲げる欧州メーカーも入札に参加させるよう、強い圧力がかかっているという。
日本側もまた、こうしたオーストラリアの動きに困惑ぎみだと『ザ・ディプロマット』は記す。日本の防衛関係者からは「(オーストラリア国内の)議論の過程を明らかにすべきだ」という声が上がっているという。「そうりゅう」はコリンズ級や欧州製の潜水艦に比べサイズが大きいため、日本側は豪海軍が次期潜水艦に求める諸元を知りたがっていると同メディアは記す。他国との競争になった場合、それが参入すべきかどうかの重要な判断材料になるからだという。
一方、オーストラリア側には、性能面以外でも「そうりゅう」を導入したい理由がある。中国の脅威に対抗するため、日米豪の軍事同盟を強化することは既定路線だが、そのためにも海上自衛隊・米海軍と共通の装備や通信システムを持つことが求められている。『ザ・ディプロマット』は、自国の造船業の再生と、日米との軍事同盟の強化との狭間で、オーストラリアは難しい立場に立たされていると論じている。
◆中国との関係でも揺れる豪州
ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)によれば、ブリスベンでの3者会談では、合同軍事演習をさらに積極的に行っていくことや、中国を含む他のアジア太平洋諸国を巻き込んだ形でも演習を行い、協調路線を目指すことなどが話し合われるという。ただし、オーストラリアの安全保障の専門家は、そうした内容よりも、G20の場で会談を行うことは、3ヶ国の結束を具体的に習近平国家主席の目の前で見せつけるという意味で重要だと、WSJに答えている。
オバマ大統領にとっては、G20で行う予定のスピーチと3者会談は「コインの裏表」だとWSJは記す。オバマ大統領は、南シナ海や尖閣諸島で中国の領土的野心に満ちた行動を許すアメリカに対する「アジア諸国の不信感」を払拭するため、改めてアジア太平洋地域の新秩序構築戦略「アジアへの楔」の効果について語るという。
一方、オーストラリアにとっては、中国は安全保障上の脅威であると同時に経済的には「重要なパートナー」だ。WSJによれば、アボット首相と習主席はG20会議の後、独自の自由貿易協定を結ぶ予定だという。中国の中産階級をターゲットに、オーストラリアの銀行、教育機関、法律事務所などを開放するといった内容だ。同紙は、「ワシントンとの安全保障上の同盟と、北京に対する経済的依存のバランスを取るのは難しい」と記す。潜水艦交渉同様、ここでもアボット政権は難しい舵取りを迫られているようだ。