クルーグマン教授、日銀追加緩和を「強く支持」 世界のビジネスリーダーの懸念を一蹴
日銀は10月31日、追加金融緩和の実施を決定した。目標のインフレ率(物価上昇率)2%を達成するために、年間に市場に供給するお金の量を10-20兆円増やして約80兆円とする。具体的には、長期国債の保有残高がこれまでの年間60-70兆円から80兆円になるよう買い入れを進めると共に、投資信託の買い入れも3倍に増やすという。
海外の経済メディアの多くは、これをかなり思い切った政策と見ているようだ。その中で、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン教授は、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)のコラムで、あくまでデフレ脱却にこだわる黒田東彦日銀総裁の姿勢を「強く支持する」と評価している。
◆「ビジネスリーダー」たちの反対論を批判
クルーグマン教授は2日付の連載コラムで、今回の追加金融緩和を取り上げた。その冒頭で、日銀が安倍内閣とタッグを組んで進めている「脱デフレ」政策は当初は順調に進んでいるように見えたが、ここに来て勢いを失っていると指摘。それに対して積極的に手を打つのは当然で、「私はこの動きを強く支持する」と述べている。
同時に、国内外の「ビジネスリーダー」を中心に、黒田総裁の政策を疑問視する声も多いと指摘する。今回の追加金融緩和は、日銀の政策委員会で賛成5・反対4で辛うじて実現した。クルーグマン教授はその事に触れ、「反対者はいずれもビジネス界に近い委員だった」と記している。自身が実際に会ってこの件について話した中でも、批判的な意見を述べたのはほとんどがビジネス界で成功している人物だったという。
その上で、クルーグマン教授は「国は企業ではない」という持論を根拠に、「ビジネスリーダーは、しばしば非常に悪い経済的なアドバイスを送る」と批判する。経済の低迷に対処するために国を企業に見立てて賃金をはじめとする支出をカットすれば、需要の低迷というデフレの根源的な問題を悪化させるだけだと主張。反対に、日銀が取り組んでいる「赤字支出と積極的なお金の投入」は、低迷する経済の「大きな助けになる」としている。
◆FT紙も「黒田総裁のスタンスは賞賛されるべき」
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)の論説も、日米の株式市場が好反応を示したことなどを挙げ、「黒田総裁のスタンスは賞賛されるべきだ」と、追加金融緩和を高く評価している。
同紙は、黒田総裁が引き続き2%のインフレ目標にこだわっているのは、「デフレの罠を正しく認識している証拠だ」と評価。しかし、反対に円安政策は「輸出は日本のGDPの15%しか占めておらず、主な日本企業の生産拠点と原料の供給元は海外にある」ことを理由に、日本の経済再生にはあまりプラスにならないとしている。
また、デフレ脱却はアベノミクスの「3本の矢」の一つに過ぎないとした上で、それでも「黒田総裁が放った矢が目標を外せば、アベノミクスの他の要素も困難に直面するだろう」と警告している。ただし、「引き続きインフレ予測が低調なものとなったとしても、黒田氏がやることは簡単だ。もっと動けばいい」と、ある種楽観的な見方を示している。
◆「慎重論が勝ればデフレとの戦いに失敗する」
ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、アベノミクスと連動した一連の日銀の取り組みを、米・連邦準備銀行、英・イングランド銀行、欧州中央銀行など主要な先進国の中央銀行もかつて取ったことのない大胆な政策だと記す。
WSJは、その量的・質的金融緩和(QQE)を「中央銀行が試みることができる有効な経済刺激策の一つだ」と一定の評価を与えている。しかし、黒田日銀が積極的に進める長期国債の買い入れは「危険な賭け」でもあるとし、それを避けた白川方明・前日銀総裁をはじめ、反対論者も多いと記す。
一方、クルーグマン教授はコラムの結びで、「今の日本で従来のような慎重論が勝れば、デフレとの戦いに失敗する可能性が高い」と、あらためて黒田総裁の「慣習に囚われない大胆な政策」を支持している。
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