トランプ集会のプエルトリコ侮辱、激戦州ペンシルベニアで波紋広がる

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 2024年のアメリカ大統領選まで1週間を切り、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領の選挙運動もラストスパートを迎えている。ハリス氏はペンシルベニアやミシガン、ウィスコンシン各州など「スイングステート」と呼ばれる激戦州を中心に、ビヨンセやエミネムなどのセレブや、オバマ夫妻など人気政治家の力も借りて精力的に選挙活動を行っている。一方のトランプ氏は、民主党の勝利がほぼ確実視されている故郷ニューヨーク市のマディソン・スクエア・ガーデンで、自身の支持者を集めた異様な雰囲気の「ヘイト集会」を開催。その人種差別的内容に非難が集中している。

◆プエルトリコは「海に浮かぶごみの島」
 トランプ氏の集会は、ヒスパニックやアフリカ系アメリカ人を中心としたマイノリティや移民、カマラ・ハリス氏を下品な言葉で攻撃する憎悪にあふれた内容だった。そのなかで最も異様だったのは、集会のオープニングを務めた右派コメディアンのトニー・ヒンチクリフの発言である。CBSニュースによると、ヒンチクリフはプエルトリコを「海の真ん中に浮かぶごみの島」と呼び、ラテン系移民を卑猥(ひわい)かつ人種差別的なジョークで罵った。

 ヒンチクリフの発言を受け、アメリカ国内でプエルトリコ系をはじめとしたヒスパニックが猛反発している。ジェニファー・ロペスやバッド・バニー、ルイス・フォンシ、リッキー・マーティンなど、プエルトリコ系のエンターテイナーはSNSでハリス氏支持を表明。プエルトリコ系市民や政治家もトランプ集会の内容に激怒している。現在はアメリカでは、大統領選自体より、このヘイト集会におけるヒンチクリフやトランプ氏、同氏側近のスティーブン・ミラー、テレビ司会者のタッカー・カールソンなどによる人種差別的な発言の数々にスポットライトが当たっている状況だ。
 
◆ラテン系を敵に回すトランプ氏
 トランプ氏はこれまでも、プエルトリコ系以外にも多くのラティーノを敵に回す発言をしてきた。記憶に新しいところでは、9月10日に行われたハリス氏との間の大統領選討論会での「オハイオ州スプリングフィールドで、ハイチ人移民が人々の猫や犬を食べている」という発言だろう。NBCニュースによると、討論会のホストを務めたABCニュースアンカーが「同市当局によれば、移民のコミュニティでペットが危険な目に遭ったり虐待されたという信憑(しんぴょう)性のある報告はない」と事実確認をしたが、トランプ氏は「私はテレビで観た」と主張し、今も発言を取り下げていない。

 ちなみに、アメリカ国内各地、特にカリフォルニア州やテキサス州、フロリダ州には、多くのヒスパニックが居住している。今回注目されている激戦州のアリゾナ州、ネバダ州にも多い。特にプエルトリコ人は移民ではなくアメリカ人であり、アメリカ国内に住む者は大統領選に投票できる。米政治専門サイト『ポリティコ』によると、今回の騒動は、50万人近くに上るペンシルベニア州のプエルトリコ系市民の間で「野火のように拡散している」。超党派のプエルトリコ人グループは、トランプ氏に投票しないようメンバーに促す書簡を作成したという。

 ニューズウィークによると、アメリカには2021年の国勢調査時点で約580万人のプエルトリコ系アメリカ人がおり、うちペンシルベニア州には約47万人、フロリダ州には約117万人が居住している。今回の騒動によって、プエルトリコ系の間でトランプ氏への反発がより高まるのは必至だろう。
 
 「オクトーバー・サプライズ」とは大統領選前の10月に起こる、一定の候補者にとって不利なニュースやイベントを指す。選挙1週間前に迫った今のところ、ハリス氏に関するネガティブな情報は出回っていない。しかしトランプ氏は今回、特にヒスパニックを攻撃する悪意に満ちたヘイト集会を催すことにより、自分自身の「オクトーバー・サプライズ」を作ってしまったようだ。

Text by 川島 実佳