廃棄食品をAIで「見える化」、ロス削減 英国発の外食用システム、世界や日本で広まる

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 2019年10月1日から「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行され、10月は「食品ロス削減月間」だ。10月30日は「食品ロス削減の日」と定められている。2022年度の日本の食品ロスの量は推計で年間472万トンに上り、国民1人あたり1日に約1個のおにぎりを廃棄していることになる。

 家庭において、「食品ロスが出ないように心掛けている」と回答した人が93.7%という最近の調査結果もあり、食品ロスに関する実践は少しずつ進んでいる。食品ロスは事業者側でも大きな課題だ。メーカーによる賞味期限の延長などの対策が進むなか、外食産業ではイギリス発の人工知能(AI)搭載のモニタリングシステムが「食品ロスを大幅に減らせる」と話題を呼んでいる。

◆AIで1000以上の廃棄食品を認識
 イギリスのウィノウ・ソリューションズが開発した外食産業用システムは、「ウィノウ」と呼ばれるモニターを厨房のごみ箱の上部に取りつける。調理スタッフが廃棄食品をごみ箱に捨てるたびにモニターの下部に内蔵されたカメラが捨てられた食材を撮影し、「フライドポテト 0.15キロ」といった具合にその種類や廃棄量を示す。

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 システムが種類の判断に迷った場合は、モニターに「(冷凍)グリーンピース、アスパラガス、インゲン、薄切りのキュウリ」「すりおろした人参、人参まるごと、人参のスティック、サツマイモのフライ」といった候補が出て、「これらのなかにありますか?」と尋ねてくるため、調理スタッフ側で特定することができる。こうして記憶させていくことで、1000以上の食品が認識できるようになっている。使用者からは「ウィノウは肉でも野菜でも非常に正確に認識して、素晴らしいです」という声が聞かれる(ウィノウ紹介ビデオより)。

 モニターには、捨てられた食材の換算コストとその処理で発生する二酸化炭素(CO2)の量も示される。この日々のデータを集計・分析することで、調理スタッフたちはどうしたら廃棄量を減らせるかを細かく検討することができる。

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 ウィノウは、高級ホテルやクルーズ船のレストラン、ケータリングなどで導入が進んでいる。85ヶ国の2700以上の厨房で使われており、ウィノウを導入した厨房は年間平均3万5000ドル(約540万円)を節約できるという。全体ではこれまでに5000万食を節約し(金額にして7000万ドル)、CO2排出量を8万7000トン削減した。

◆イケア・ジャパンは62%の大幅削減に成功
 ウィノウはシンプルな方法だが、厨房の廃棄物を「見える化」することは非常に効果があると驚かされる。

 家具・インテリア用品チェーンのイケアは、併設のレストランも人気だ。世界でイケアのリテール事業を運営するIngkaグループによると、イケアでも厨房の食品ロスに取り組もうと、2017年に「全店舗の食品廃棄物合計を50%削減する」という目標を掲げ、ウィノウを導入した。2万人以上の調理スタッフたちがウィノウを使いこなした結果、2021年末に目標を達成し、2022年7月の時点では54%に到達した。これは2000万食以上の節約にあたり、3万6000トンのCO2量削減につながった。

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 上記の削減目標の達成には、日本のイケアも多大な貢献をした。国内のイケア12店舗では年間1200万人以上に料理を提供しているが、2018年夏からウィノウを使い、食品ロス62%(17万3409食分相当)削減に成功した。CO2排出量減は298トンにも上った。

 アメリカ首都ワシントンの環境非営利団体の世界資源研究所(WRI)は、「小売業者、食品生産者、流通業者はイケアの例から学び、持続可能な食品システムの実現に貢献することができる」と模範的なイケアの取り組みをたたえている。

 ほかにも、日本で最初にウィノウを導入した高級ホテルのヒルトングループも、食品ロスの大幅削減に成功している。

◆食品ロスを防ぐには廃棄食品を確認
 ウィノウ・ソリューションズはさまざまな国で経験を積み、ゼロウェイスト・レストランを開いたヴォイチェック・ヴェグ氏をゼロ・ウェイスト料理アドバイザーとして任命している。氏は食材が無駄になっているのを見ると、それが持つ可能性とともに、どれだけの味が実際に無駄になってしまうのかが気になるという。

 「厨房のごみ箱に何が入っているのかがわからなければ、食品廃棄物を減らすことは難しいです。ウィノウは欲しいデータを提供するので、必要に応じて行動を起こすことができます。厨房で食品廃棄物を減らすという共通の目標に一緒に取り組み、世界中でゼロウェイストの調理が当たり前になることを願っています」と語る。

 ウィノウ・ソリューションズが目指す「業務用厨房の新しいムーブメント」は、今後も着実に広まっていくのではないだろうか。

Text by 岩澤 里美