バングラデシュ、縫製工場火災に労働者の不満が爆発–劣悪な労働環境の改善なるか

 24日夜、バングラデシュを代表する縫製会社、タズレーン・ファッションズが操業する8階建ての工場で火災が発生。少なくとも112人が死亡する大惨事となった。目撃者によれば、炎や煙にまかれた労働者たちが次々に、上階の窓から周辺の建物の屋根に飛び移ったという。材料や製品が脱出口をふさいでいたために、多数の従業員が窒息死した模様だ。
 さらに、大火災の衝撃が冷めやらぬ26日朝、小規模で犠牲者こそ出さなかったものの、ダッカの縫製工場で第2の火災が発生したことで、市民感情が悪化。労働者の怒りが爆発し、激しいデモが繰り広げられた。
 バングラデシュは中国に次ぐ世界第二位の衣料品輸出国で、国内の工場数は4500、従業員数は300万人にのぼる。今や縫製産業は、同国にとって国内経済の牽引役であり、石油輸入に必要な外貨獲得の手段でもある。海外各紙はその光と影に注目した。

 バングラデシュが近年、縫製業界で中国を猛追しているのは、中国の人件費の高騰を受け、同国の安価な製造コストが世界中の衣料品メーカーを魅了しているからにほかならない。しかし、それだけに労働環境の劣悪さは国内外でしばしば指摘されてきた。特にやり玉に挙げられてきたのが、低賃金、工場内の労働組合の制限、そして火災に対する安全措置の乏しさだとされる。実際、2006年以後、数十件の工場火災によって、すでに500人とも600人とも言われる死者が出ているという。

 フィナンシャル・タイムズ紙は、労働環境改善活動団体であるバングラディッシュ労働者連帯センター(BCWS)のアクター代表が、このような悲劇の責任を、工場主、バングラデシュ政府、欧米の衣料企業に求めていると紹介した。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によれば、今回火災の起きた工場の取引先と取沙汰されるウォルマートでは、かねてより同工場を「ハイリスク」と認定していたともされる。同社は、工場にはすでに同社の製品生産の権限がなかったとしながらも、関係するサプライヤーが同工場に発注していた事実を認め、哀悼の意を表すると共に、今後の安全性の向上に取り組むことを表明した。同紙は、今回の機運を受け、今後、海外の衣料品メーカー各社に安全性向上の責任が生じ、コストが増加する可能性を示唆した。

 一方、ニューヨーク・タイムズ紙はハシナ首相が27日を国家哀悼の日として、すべての繊維工場に休業を命じた際、確たる証拠はないままに、今回の火災が、同国の縫製業界をむしばもうとする陰謀によるものと示唆したことを紹介した。発表によれば、すでに2名の放火犯が逮捕されたという。

 また、フィナンシャル・タイムズ紙は、前述の、BCWSの代表、アクター氏が過去、投獄の憂き目にあっていることを紹介。さらに、彼女の同僚は、拷問の痕もあらわな遺体となって発見されたが、一切は謎のままだとし、大企業の利潤と国家的利益追求の陰で、一般市民の権利が踏みにじられていることを示唆した。

Text by NewSphere 編集部