原発再稼働へ大きな一歩 政府の圧力、世論無視と米紙批判
原子力規制委員会が10日、九州電力川内原発の二つの原子炉に関しての安全対策を承認した。今後地元自治体の同意が得られれば、再稼働が可能となる。今回の発表で、国内の原発再開に弾みがついた形だ。
【反対多数なのに】
ニューヨーク・タイムズ紙は、再稼働へ近づいたとしながらも、世論は懐疑的であると報じる。規制委は、7月に川内原発の安全対策に関する審査書案を公表した後、1か月に渡って意見公募(パブリックコメント)を実施。予想を超える1万7800件のコメントが寄せられたが、その多くが火山活動の活発な地域にある、川内原発の安全性に非常に懐疑的だった、と同紙は述べる。
ブルームバーグは、川内原発での論争の焦点は、「世界で最も地震活動が活発な国が原発を持つべきか」にあると指摘。経団連は輸入に頼らない安定した原子力への回帰を支持するが、国内の世論調査では、原発反対が多数を占めるとし、7月の朝日新聞の調査では、回答者の59%が川内原発再稼働に反対だったと説明した。
【規制委に圧力】
ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の規制委の承認は、政府の厳しい政治的圧力によるものだと指摘する。安倍首相は大企業を支援し、経済再生戦略の一部として、原発再稼働を望んでいる。また、原発停止による電力不足を補うため増加する燃料輸入のコストが、貿易赤字増大の原因だと言われていることも、首相が原発再開を目指す理由だとしている。
同紙はさらに、パブリックコメントで多くの懸念が示されたにも関わらず、規制委が7月の調査結果を大きく修正することなしに、今回の承認を出してしまったとし、政府の関与を批判する声を紹介している。
鹿児島大学で平和学を教える木村朗教授は、「安倍政権からの強い圧力があるのは明らか」とし、政府が国民の意志を無視して、そのアジェンダを押し通そうとしていると述べる。また、再稼働反対派も、より独立した監視を目指し作られた規制委が、どんどん政権のためのゴム印化しているように見える、と非難している(ニューヨーク・タイムズ紙)。
【自治体の理解獲得へ】
AFPは、安全対策が承認されても、再稼働が年末前になる可能性は少ないと指摘。さらに大変なのは、原発周辺の自治体の賛同を得ることだと述べる。
原発近くの自治体は、電力会社から助成金を受け、雇用も発電所に頼るため、再稼働に理解を示すことはよくある。しかし、直接の恩恵を受けない、さらに離れたところの住人から反対の声があがることは、しばしばだ。彼らは自分達が福島のような事故が起こった場合の、最前線にいると見ているからだ(AFP)。
懐疑的な国民を納得させる仕事を担う小渕新経産相は、「地元自治体の理解」を得る大切さを強調。「心配だと言うのは当然」とし、「中央政府は、これらの感情に十分な説明をする必要がある」と述べている(AFP)。
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