「性奴隷」日本批判の元国連クマラスワミ氏に、韓国紙が異例の合同取材 朝日の記事撤回に対抗か
韓国メディアの取材団が9日、慰安婦問題について、元国連人権理事会特別報告官のラディカ・クマラスワミ氏に合同インタビューを行った。
同氏は、旧日本軍による強制性を認め、日本政府に元慰安婦への公的な賠償などを勧告した「クマラスワミ報告」(1996年)をまとめた、スリランカの女性法律家。韓国メディアは、「大半が強制的であったことは明らかだ」などとする、当時と変わらない同氏の見解を一斉に伝えている。
【合同インタビューの背景】
「クマラスワミ報告」は、もともと、広く当時の「女性への暴力」に関する報告書だったが、韓国の市民団体などの要請で、慰安婦問題に特化した文書が付け加えられた。これが慰安婦問題に対する日本政府の法的責任を認め、元慰安婦個人への賠償責任を勧告する内容となったため、韓国側などでは現在も、“国際社会の非難”の有力な根拠の一つとされている。
朝鮮日報(日本語版)によると、インタビューは現地時間の9日、スリランカの首都・コロンボにあるクマラスワミ氏の自宅で、「韓国外交部合同取材団」によって行われた。朝日新聞が5・6日の特集記事で、慰安婦募集の強制性の根拠となっていた「吉田証言」を虚偽と判断し、関連記事を撤回した直後のタイミングだ。異例の護送船団方式で行われており、外交部(外務省)の関与も示唆される。ただ、各メディアの記事は、朝日の件について直接触れてはいない。
なお「クマラスワミ報告」では、日本軍が「慰安婦」の徴用にどう関与したか、資料がないと記されている。ただ、被害者の証言が、「軍や政府がどう関わっていたかについて一貫」していることから、疑う余地はないと断じている。朝日新聞が撤回した「吉田証言」も軍関与を示す根拠として言及されているが、歴史家の秦郁彦氏から反論があったことも付記されている。
【現日本政府の対応を批判】
合同インタビューの内容は、朝鮮日報、聯合ニュース、コリア・タイムス、アリランニュースなどが、12日付で一斉に報じている。それによると、クマラスワミ氏は、報告書は「元慰安婦の証言と歴史的な証拠、日本のNGOへのインタビュー」に基づいており、慰安婦募集の「大半は強制的であったことは明らかだ」などと改めて語った。
クマラスワミ氏は、日本政府の対応についても意見も述べている。自身が調査を始めた1995年からしばらくは、「(日本で)教科書の記述を改訂する取り組みがあり、アジア女性基金が設立された。もちろん、それで十分というわけではないが、正しい方向には向かっていた」と評価。しかし、現在は、「95年以前の強硬路線に後退している」と、河野談話見直しの動きがあったことなどを批判した(安倍政権は河野談話を見直さないと明言している。同氏がそれを知らなかったのか、韓国側が反発した談話作成過程の検証結果発表を指すかは不明)。
謝罪と賠償に関しては、「(日本政府は)なぜ、認めて正しいことをしないのか?」「他の事では先進的な日本が、なぜ元慰安婦の代表と同じ席につき、最終的な声明を出すという簡単なことをしないのか」などと発言。各韓国メディアはこれを、クマラスワミ氏が「日本に謝罪と賠償を求めた」(コリア・タイムズ)、「日本政府に真実と向き合うよう求めた」(聯合ニュース)などと報じている。
【「性奴隷」表現は「明らかに奴隷的な状況があったため」】
朝鮮日報によれば、報告書では慰安婦が「性奴隷」と表現されていたが、クマラスワミ氏はその理由について、「被害者の証言では明らかに奴隷的な状況にあったため」「女性たちが自身の意思に反し誰かによって統制されていたため」などと語った。
インタビューでは、「慰安婦は売春婦だったとする日本の右派勢力の主張」や、日本での在日韓国人などに対するいわゆる「ヘイトスピーチ」についての見解を求める質問も飛んだ。これに対し、同氏は「すべての国において違う人種やほかの国、女性を敵対視する動きはあり得るが、国家はこうしたヘイトスピーチを自制させる責任を負う」などと答えた。朝鮮日報はこの発言を「日本政府に釘を差した」と報じている。
女性に対する暴力をめぐる10年(ラディカ クマラスワミ) [amazon]