過去研究の「適度な飲酒で長生き」は誤り…最新研究が“欠陥”を指摘
「酒は百薬の長」と言われ、適度な飲酒は健康に良いというのが一般的な認識だ。しかし近年、その考えは誤りだとする研究結果が発表されている。
◆適度な飲酒を推奨する研究に欠陥
「1日1杯のワインは体に良い」というのを耳にしたことがある人は多いのではないだろうか。しかし、「アルコールと薬物に関する研究ジャーナル」に7月25日に掲載された新しい研究レポートによると、それが欠陥のある科学的研究に基づいた主張だということがわかった。
長年にわたり、多くの研究が、適度な飲酒者は非飲酒者よりも心臓病やその他の慢性疾患のリスクが低く、長寿であることを示唆してきた。そのため、適度な飲酒は健康の強壮剤になるという考えが広まった。しかし、すべての研究がそのようなバラ色の結果を示しているわけではない。
カナダ・ビクトリア大学の物質使用障害研究所のティム・ストックウェル博士は、「端的に言えば、適度な飲酒と健康上の利益を関連づける研究は、根本的な設定に欠陥がある」と述べる。
ストックウェル博士らは、多様な年齢や背景を持つ参加者480万人以上、死亡人数42万5564人が記録された107の観察研究論文を分析した。その結果、軽度から中等度の飲酒者(週1杯から1日2杯の飲酒者)は、禁酒者に比べて研究期間中に死亡するリスクが14%低いことがわかった。
しかし、多くの研究の主な問題は、アルコールを飲んだことのない人と飲んだことのある人を比較しないことだった。多くの研究は、飲酒をやめた人と飲酒を続けている人を比較している。特に人生の後半になってから酒をやめる人は、健康上の問題を抱えていることが多いので、適度な飲酒をする人のほうが健康的に見える、とストックウェル博士は言う。
現在飲酒している人と「一度も飲酒したことがない人」を比較していると主張する研究もあるが、後者のグループの定義には、実際には時折飲酒する人も含まれていることが多いという。たとえば、ある研究では、毎年最大11回まで飲酒する人も生涯非飲酒者と定義していた(ニューサイエンティスト、7/25)。
研究チームが研究結果を深く掘り下げてみたところ、比較的若い人(平均55歳以下)を対象にし、元飲酒者や時折飲酒する者を 「禁酒者」とみなさない 「質の高い」研究がいくつかあり、これらの研究では、適度な飲酒は長寿とは関連していなかったことがわかった。
適度な飲酒が長寿と関連していたのは、「質の低い」研究(参加者の年齢が高く、元飲酒者と生涯禁酒者の区別がない)だった。
ストックウェル博士は「質の低い研究を見れば、いかにも健康上の利点があるように見える」と述べる。
◆高まるアルコールフリー・ムーブメント
適度な飲酒が健康で長生きにつながるという考え方は、数十年前から存在する。その一例として、ストックウェル博士は 「フレンチ・パラドックス」を挙げた。1990年代に広まった考え方で、フランス人は豊かで脂肪分の多い食事をしているにもかかわらず、心臓病の発症率が比較的低いのは赤ワインのおかげであるというものだ。博士は、そのようなアルコールは万能薬であるという考え方はいまだに人々の心に「染みついている」ようだと指摘する。
メディカル・ニュース・トゥデイによると、最近は研究により、適度なアルコール摂取にも悪影響があり、大きなメリットもないことがますます明らかになっているため、専門家はアルコールフリーのライフスタイルを提唱している。考えが大きく変わったことによって、さまざまな国で禁酒運動(アルコールフリー・ムーブメント)が高まりを見せている。
今回の調査には参加していない、アルコールと禁酒を専門とする臨床栄養学のブルック・シェラー博士によると、この動きは、2022年のカナダの勧告改訂や世界保健(WHO)の指針更新など、最近の飲酒ガイドラインの変更と合致する。博士は「アメリカでは2025年に指針が変更される可能性がある。それまで医師や医療提供者が見解を改め、飲酒を勧めることを控えるようにすべきだ」と述べる。(同上)
ストックウェル博士は「人々は、業界が長年にわたってたきつけてきた主張に対して懐疑的になる必要がある。彼らは明らかに、自社の製品ががんの原因ではなく長生きさせるものであると宣伝することに大きな関心があるわけだから」とし、適度な飲酒のリスクが小さくても健康に良いものでないことを消費者に知らせるべきだと述べる(ニューサイエンティスト)。