ムスリム女子メタルバンド、世界最大級フェス出演 注目の『ボイス・オブ・バチェプロット』とは?

FakirNL / Wikimedia Commons

 インドネシアのムスリム女子3人が始めたバンドが、世界最大規模のロックフェス、グラストンベリー・フェスティバルに出演を果たした。ムスリム社会からの強い偏見や批判を振り切り、メタルで感情を表現し続ける彼女たちの情熱が、国境を越えた支持を得ている。

◆反抗的な女子学生3人 カウンセラーの勧めでバンド結成 
 話題の女性メタルバンド『ボイス・オブ・バチェプロット』は、2014年に3人のムスリム女子学生、マルシャ(ボーカル&ギター)、シティ(ドラムス)、ウィディ(ベース)によって、西ジャワ州の田舎町で結成された。バンド名はインドネシアの言語の一つであるスンダ語で、「騒音」を意味する。

 BBCによれば、中学生だった3人がヘビーメタルに出会ったのは、定期的に「反抗的な行動」で呼び出された学校のカウンセラー室だった。3人はここで、カウンセラーのエルサ先生のパソコンから流れるヘビーメタルを聞き、アドレナリンが体を駆けめぐるのを感じたという。

 学校の制度に反発し、教師としばしば衝突していた3人だったが、決して薬物に手を染めたりトラブルに巻き込まれたりする反抗的なタイプではなかった。これに気づいていたエルサ氏は、彼女たちに音楽で感情を表現することを勧め、それぞれに楽器を紹介した。3人にとって、メタルはまさに新しい何かであり、次第に演奏することが、学校に行く理由になった。

地元からは悪魔扱い… 海外では高評価
 ところが、保守的なイスラム教徒が多い彼らの町では、ヘビーメタルへの偏見は強く、マルシャが「悪魔の音楽を作るな」と書かれた石で頭を殴られたこともあった。ヒジャブとメタルの組み合わせが挑発的だという人もおり、ウィディの家族も「将来が台無しになる」として、バンド活動を否定したという。中学卒業後に通っていたイスラム学校の校長も彼女たちの音楽を批判しており、3人はのちに退学している。(BBC)

 それでも彼女たちは、自分たちの怒りや疑問を歌に込め、着実に前進してきた。トルコの日刊紙デイリー・サバは、ボイス・オブ・バチェプロットは男性優位の社会で、ジェンダーの固定観念に挑戦しながら多くのファンを獲得してきたと述べている。CNNによれば、実はインドネシアではメタルは長い間絶大な人気を誇っており、メタルファンのなかに彼女たちの音楽を受け入れる下地もできていたようだ。

 さらにバンドは海外でもファンを増やし、アメリカや欧州でも演奏の機会を獲得。レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど有名バンドのメンバーからの称賛も含め、その音楽性が国際的な注目を受けるようになった。

 ステレオタイプに挑戦するバンドの姿勢も評価され、今年のフォーブス誌の「世界を変えるアジアの30歳未満」のエンタメ&スポーツ部門に選出された。ソーシャルメディアでも存在感を示し、ユーチューブチャンネルの登録者数は37万人、インスタグラムのフォロワーも24万人超となっている。

◆英有名フェス出演 インドネシア初の快挙
 そしてついに今年、インドネシア出身バンドとしては初めて、3人はグラストンベリーのステージに立った。オンラインニュース『ベナール・ニュース』は、彼女たちの珍しさが話題になりがちだが、メディアのレビューではその技術の高さやスタイルが高く評価されたと伝えている。

 デイリー・サバによれば、バンドは現在海外からの演奏オファーをたくさん受けているが、本当の夢はインドネシアで全国ツアーをすることだという。残念ながらまだその機会はないと述べる彼女たちだが、グラストンベリーでの成功により、国内での知名度と評価も高まることが期待される。

Text by 山川 真智子