フランス人も混乱? 今夏のパリの交通事情 五輪・パラで

五輪開会式会場付近の立ち入り制限が始まったパリ|David Goldman / AP Photo

 五輪、パラリンピックが開催される今夏のパリ。日本の暑さを逃れ、フランス旅行を計画している人も少なくないだろう。パリを取り巻く地域の主な交通手段は、メトロ(地下鉄)、RER(近郊高速鉄道)、バス、トラム(路面電車)、タクシー、VTC(ハイヤー)。これは今まで通りだが、大会期間中は特別な規制が敷かれるため、観光客のみならず、フランス人も戸惑う状況が生まれそうだ。

◆タクシーとVTCの明確な区別
 配車アプリはフランスにも浸透している。代表格のウーバーは元々VTC(ハイヤー)専門の配車アプリとして生まれたため、今でもフランスではウーバーという単語をVTCの意味で使う人が多い。

 ウーバーアプリを使ってVTCを手配すれば、前もって料金が表示される。行き先指定も支払いもアプリ内で済ますことができるので、外国人にとっても安心で便利。しかも長距離の場合は、一般的にタクシーよりもVTCの方が安価とされる。筆者の周辺のフランス人もスマートフォン世代はみな、タクシーではなくVTCを使っている。

 ちなみに、イル・ド・フランス(パリとその周辺地域)で営業しているタクシーは約1万8000台なのに対し、VTCは約3万台(キャピタル誌、7/15)。急ぎのときはVTCの方がつかまえやすいという印象がある。

 それにもかかわらず、五輪期間中は、必ずしもVTCが便利とは限らない状況が予想される。なぜか?

◆185キロに及ぶ五輪特別レーン
 イル・ド・フランスのいくつかの道路には、この夏、五輪とパラリンピックの混雑を軽減するため、大会関連車両専用のレーンが設けられた。環状高速道路、市内とシャルル・ドゴール空港を結ぶ高速道路もこれに含まれ、専用レーンの総長は185キロに及ぶ。

 7月15日から9月頭までこのレーンを走れるのは、大会組織委員会に認定された車両、公共交通機関、身体障害者の輸送車、救急および警備サービス車、タクシーのみとなっている。違反した場合は135ユーロの罰金が科せられる。タクシーではないVTCはこのレーンを走ることができない。

 つまり、道の混雑具合、時間の余裕などによっては、VTCよりもタクシーを選んだ方が良い状況も生まれるということだ。

◆メトロとRERとゾーン
 パリの公共交通機関は、主にパリ交通公団(RATP)が運営管理している。そのため、メトロ、バス、トラムとも共通チケットで乗ることができる。

 このRATPは7月20日~9月8日の五輪・パラリンピック期間中、大幅な値上げを決めている。基本の1回乗車券は、2.15ユーロなのだが、これが7月20日からは4ユーロになる。ただし、20日以前に購入したチケットは追加料金なしで使える。

 パリの交通機関は、中心から順に1~5の5つのゾーンに分かれている。上述の1回乗車券は通常ゾーン1~2で使えるものだ。ただし、メトロだけは、地理的にゾーン3に位置していても1回乗車券でアクセス可能となっている。

 そのため、同じところへ行くのに、RERに乗るかメトロに乗るかで、値段が変わってくる。五輪観戦で足を運ぶ可能性が高いフランス・スタジアムやラ・デファンスがこれにあたる。パリ市内からメトロで行くのであれば、1回乗車券で問題なく移動できるのだが、RERで行くならもっと高いチケットを買わねばならなくなるのだ。

 厄介なことに、メトロやRERには乗り越し清算のシステムが存在しない。もし検札時に不正乗車が発覚した場合、35ユーロの罰金が科せられる。

◆乗り換えが多いならパス購入が便利
 ちなみに、1回乗車券では、メトロとRER間の乗り換えは可能だが、メトロ/RERとバス間、もしくはメトロ/RERとトラム間の乗り換えは不可能だ。乗り換えるときは新たにチケットが必要となる。

 RATPは、これらの混乱を避けるためとして、五輪期間中のパス、パリ2024を売り出している。これは、1日~7日間、7種の乗り放題乗車券で、ゾーン制限も乗り換え制限もなく、空港移動の特別料金も不要だ。値段は、1日パス16ユーロ(約2700円)から7日パス70ユーロ(約1万2000円)まで設定されている。

 最後に、電子タバコ愛好者へ。交通機関内での電子タバコの使用は禁じられている。うっかり吸ってしまうと、35ユーロの罰金が科せられるので、十分注意が必要だ。

Text by 冠ゆき