魅惑の「夜の森」を歩く 新しいエンターテインメント人気 北海道、長崎にも
室内全面に現れる映像と音でアートを楽しむ没入型展覧会や、古い時代の町や外国の街並みを体感できる没入型テーマパークが世界各地で人気を博している。そんな異次元の世界に入り込めるエンタメに今、本物の森を舞台にした新しいスタイルが加わり、じわりと開園数を増やしている。
◆照らされた夜の森を歩く
「ルミナ・ナイトウォークス」シリーズは、夜の暗い森をライトで照らし、映像や音楽も組み合わせて、昼間とはまったく異なる雰囲気の中で歩く屋外エンターテインメントだ。トレイルの長さは、通常1~1.5キロ。カナダ、アメリカ、ヨーロッパ、アジアと世界中で実施され、現在、インスタレーションの数は20を超える。
「シリーズが作られる場所は、国立公園、植物園、スキーリゾート、アミューズメントパークの中などさまざまです。各インスタレーションは、それらのクライアントに合わせてユニークな構造になっています」と制作者のモメント・ファクトリー(Moment Factory)の広報担当が話すように、体験できる内容は各地で違う。具体的には、その土地の歴史や環境、文化にちなんだナイトウォークの物語を作っており、ほとんどの場合、構想の段階から完成まで約1年かかるという。体験期間は、夏または冬のみなど季節限定のものもあれば、1年中訪問できる場所もある。
モメント・ファクトリーは東京を含めて世界5ヶ所に拠点を置き、デジタルアートの気鋭のクリエイターたちが働いている。ナイトウォークスシリーズのほかにも、スポーツイベントのセレモニー、コンサート、空港、教会や美術館といったいろいろな場所でマルチメディアのプロジェクトを進めている。
◆「ルミナ・ナイトウォークス」に経済効果
人が訪れることがなかった夜間の屋外エリアに観光の機会を作り出すことは、着実に観光シーズンの延長につながっている。同社によると、世界のルミナ・ナイトウォークスの訪問者は累計700万人に達している。集客はナイトウォークスの入場料による収益や周辺の宿泊数の増加につながり、地元の雇用創出にも役立っている。
観光スポットとしての成功は、シリーズ初の「フォレスタ・ルミナ」ですでに明らかだった。2014年開園のフォレスタ・ルミナは、カナダ・ケベック州のゴルジュ・ド・コアティクック公園内にあり、現在も訪問できる。インスタレーション誌によると、同園は開園最初の夏に予想をはるかに上回る約7万人が訪問し、翌年には2倍以上の14万5000人を超える人が訪れた。フォレスタ・ルミナは地域の交通量を爆発的に増やし、ホテル、レストラン、近隣の観光施設に前例のない経済的効果をもたらしたという。
「ルミナ・ナイトウォークスシリーズは、その場所の魅力を高めてブランド力を向上させるとともに、営業時間の延長により、新しい訪問者を引きつけることができます。そして、経済的な持続可能性を確保することもできるのです」(広報担当)
◆日本でも開園~自然との調和
ルミナ・ナイトウォークスは、日本には2ヶ所ある。長崎県伊王島の「アイランド・ルミナ」(休演中)と北海道阿寒湖畔(阿寒摩周国立公園内)の「カムイ・ルミナ」だ。
モメント・ファクトリー広報担当は、「夜のウォーキング体験の制作にあたり環境への配慮は非常に重要で、動植物との調和を保つことは当社の優先事項の一つです」と話す。阿寒湖は国立公園内にあるため、カムイ・ルミナの制作では環境面にとりわけ配慮したという。
「カムイ・ルミナを制作するために、私たちはアイヌコミュニティーや環境省と緊密に協力しました。自然との共存という制作方針に従い、画期的なアイデアを作り出したことによって、ナイトウォークが自然環境に与える影響を最小限に抑えることができました」(広報担当)
◆スタンダード版の「星の物語」を開発
2022年、モメント・ファクトリーは新しい局面を迎えた。それまでのオーダーメイド版とは別に、一定期間の設置した後に別の場所へ移動できる「アストラ・ルミナ」という星にまつわる定番の物語を開発したのだ。
同社のマルチメディアショー・ディレクターのトマス・ピンタル氏は、「ショー(ナイトウォーク)を巡回しよう。同時に、特別に作るプロジェクトを進めていこうという思いでアストラを作りました。私たちは自分たちの仕事が大好きで、どこにでも展開したいと思っています」とフォーブス誌に語り、より多くの人たちにナイトウォークスを体験してもらうことを期待している。
先日は、最新の開園について発表があった。今秋、アメリカで5回目のインスタレーションとなる「アクアビア・ルミナ」がオープンする。渓谷にあるアクアビア・ルミナの訪問者は、夜間に、伝説の泉を探して神秘的な鹿を追いかける物語を体験することになる。
1つのナイトウォークのリピーターもいるだろうし、「日本とアメリカのナイトウォークに行った!」という楽しみ方をする人も出てきそうで、ルミナ・ナイトウォークスはさらに各地に広がっていく勢いだ。