650円で買った壺、1000年以上前の芸術品だった リサイクルショップの値引き品

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 米ワシントンのリサイクルショップでお値引き品の棚に並んでいた壺(つぼ)が、実はマヤ文明のお宝だったことが分かった。壺を購入した人がその価値に気づき、鑑定が行われたところ本物であることが判明。メキシコ政府は国外流出した文化財の回収に努めており、この壺も無事故郷に戻る運びとなった。

◆たまたま目を引き購入 土産物だと思っていた……
 話題のお宝を保有していたのは、ワシントンに住むアンナ・リー・ドジャーさんだ。5年前に地元のリサイクルショップで陶器の壺を見つけ、3ドル99セント(約650円)で購入した。

 ドジャーさんは、仕事でしばしばメキシコを訪れていたという。壺は同じ棚に並ぶほかの商品とは異なる見た目で、メキシコ産と書かれていたことから目を引いた。「きっと観光客が旅行先から持ち帰ったものだろう」という程度の認識で、購入後は3人の小さな息子たちの手が届かない、自宅の書斎に置いていた。(カナダCBC

◆博物館の展示物にそっくり 鑑定で驚愕の事実判明
 CBCによれば、ドジャーさんが壺の価値に気づいたのは、今年1月のメキシコ訪問で、国立人類学博物館を見学したときだ。館内をぶらぶら見て回っていると、自宅に置いている壺と、非常によく似たものがあった。

 そこでドジャーさんは博物館の職員に事情を話し、自分の持っている壺が文化財だとしたらどうすればいいのか、と尋ねたという。職員は不審そうな表情だったが、在米メキシコ大使館に連絡するようアドバイスした。

 ドジャーさんから連絡を受けた大使館は、メキシコの国立人類学歴史研究所に鑑定を依頼した。その結果、この壺はマヤ(現在のメキシコ南東部)を起源とする絵付けの壺で、西暦200年から800年の古典期マヤ文明のものであることが分かった。

◆文化財は返還されるべき メキシコ政府の取り組みとは 
 ドジャーさんは壺が本物と分かった後、売ったりオークションにかけたりすることはなく、快くメキシコ大使館に返還した。お金に換算できない価値を理解し、あるべき場所に戻ることが最良だと考えたからだという。(CBC)

 ロイターによると、壺は皿、鉢、彫刻などのほかの20のアメリカで発見された文化財とともに、メキシコに戻る予定だ。

 芸術関連のニュースサイト『アート・ニュース』によれば、メキシコは、「私の遺産は売り物ではない」というキャンペーンを展開中。2018年以降、15ヶ国から1万3500点以上の考古学的・歴史的遺物の回収に成功している。

 メキシコ政府は、メキシコの考古学的資料の売買と戦い、遺産返還のために博物館や民間機関との対話を促進する目的で、2021年に正規の手続きを定めている。今回の壺も、それにより情報収集、鑑定、返還という流れになった。(CBC)

 もっとも、返還を求めても拒否されることもあるという。最近では、コロラド州のオークションハウスが、メキシコ当局の中止の要請にもかかわらず、歴史的なマヤの工芸品数点を販売していた。メキシコ政府の関係者は、自国にとって神聖な文化遺産の取引を防ぐためには、声を上げ続けることが政府の責務だと語っている。(アート・ニュース)

Text by 山川 真智子