ハワイ、絶滅危機の鳥を救うため毎週25万匹の蚊を放出
夏になると発生する蚊。恐ろしいのは、蚊がマラリアなどの感染症を媒介し、感染症が流行するリスクがあることだ。ヒトだけでなく、免疫のない動物も感染症を発症する。今、ハワイ在来の鳥が、蚊が媒介するマラリア感染によって絶滅の危機にある。
◆ハワイ固有の鳥、蚊によって半減 絶滅危機
英ガーディアン紙によると、米ハワイ州マウイ島では、絶滅の危機にひんしている希少な鳥を救おうと、毎週ヘリコプターから25万匹もの蚊が投下されている。これまで1000万匹が放たれた。
ハワイ諸島の固有種である色鮮やかなハワイミツスイ類、通称「ハニークリーパー」は、すでに33種が絶滅し、残る17種の多くが絶滅の危機に瀕している。
原因は、1800年代にヨーロッパとアメリカの船によって持ち込まれた蚊が媒介するマラリアだ。この病気に対する免疫を持たずに進化してきた鳥たちは、一度刺されただけで死んでしまう。
アメリカ国立公園局によると、ハニークリーパーの1種であるカウアイ・クリーパー(アキキキ)の個体数は、2018年の450羽から2023年には5羽に減少。カウアイ島に野生で生息しているのはわずか1羽であることが判明している。
残りの鳥は一般的に標高1200~1500メートル以上の高地に生息している。そこは寒すぎるため、鳥マラリア寄生虫を持つ蚊は生息していない。しかし、温暖化で気温が上昇するにつれ、蚊は鳥たちの最後の砦となる高地にまで侵出している。
このまま何の対策も取らなければ、1年以内に一部は絶滅リスクがあると懸念されている。
◆メス蚊はオス蚊で退治
現在、自然保護活動家たちは一風変わった戦略で鳥の救出を急いでいる。それは、大量の蚊を放出する方法だ。
対策を推進する連合組織「蚊ではなく鳥を」によると、この戦略は、自然界に存在する細菌「ボルバキア」を保有するオスの蚊を放ち、交配したメスの繁殖を阻止する不適合昆虫法(IIT)というやり方で、初めて野生生物の保護に適用された。
米公共ラジオ(NPR)によると、国立公園局職員のウォーレン氏は「これまでの研究で明らかになったのは、この戦略が有効だということです。ただし、最大の問題は、蚊の個体数を効果的に抑制できるかという点なのです」と説明する。
メスは1度しか交配しないため、時間の経過とともに蚊の個体数が減少すると考えられている。連合チームは夏が過ぎれば、蚊の数は減少し始めるのではないかと期待している。
◆種の絶滅で静まり返る森
特長的なくちばしを持った色彩鮮やかなハニークリーパーは、720万年以上前にハワイにやって来た。島の楽園のような環境のおかげで、この希少な鳥は繁殖し、50種以上に増えた。その羽は、ハワイを象徴する鳥として今も工芸品や衣服に使われている。(インタレスティング・エンジニアリング)
ハワイのハニークリーパーは地球上のほかのどこにも生息しておらず、森の生態系に不可欠な存在だ。この鳥たちはハワイ固有の植物の受粉を助け、昆虫を食べ、森林を支えている。その森林は、多くの地域に飲料水を供給する降雨をろ過する役目を担う。
しかし、マウイ島の森は大きく変化した。ショウガなどの外来植物によって自生樹木が枯れ、シカやネズミのようなハワイに生息していない動物が住み着き、鳥たちが姿を消した。
マウイ島森林性鳥類回復プロジェクトは、蚊のいない安全な鳥の生息地を取り戻すため、長期にわたる取り組みを進めている。牧場や農業のために大半を伐採されてしまった森林に10年以上かけて、何万本もの木を植えた。
同プロジェクトのザイドル氏は「私たちの世界は、種を絶滅させていけばいくほど、色彩も多様性も失われてしまうのです」と言う(NPR)。ハニークリーパーの絶滅は、ほかのどこにも生息していない種の喪失をも意味する。