BASF創設者の子孫、なぜ相続した42億円を寄付したのか 市民団体が寄付先を決定
世界には相続税がかからない国がある。ヨーロッパのオーストリアがその一つだ。政府の相続税廃止を批判する女性がこのほど、42億円以上の相続金を寄付すると発表し、世界を驚かせた。
◆ドイツ大手化学会社の子孫、相続42億円寄付
オーストリアの富と相続に税金がかからないことを非難してきた女性相続人が、2500万ユーロ(約42億8000万円)という莫大な遺産を、社会団体や気候変動団体、著名な左翼団体を含む77の団体に寄付した。
マルレーネ・エンゲルホルン氏(32歳)は、ドイツの化学大手BASFの創業者であるフリードリヒ・エンゲルホルンの子孫で、遺産を受け継ぐ以前から、富裕層や相続者への増税を求め活動している。
同氏は1月、世論調査専門家によって選ばれたオーストリア市民を代表する審議委員を任命し、彼女の遺産の使途を決定させた。
オーストリアのメディアによると、「再分配のための良き助言」と呼ばれるこの委員会は16歳から85歳の50人で構成され、3月から6月にかけて、ザルツブルグで6回の週末会合を開き、遺産の使途を検討した。
審議の結果、気候変動や環境プロジェクト、低価格住宅の開発、医療、社会プロジェクトに関わる77の活動への資金提供が必要になると意見を示した(ドイチェ・ヴェレ、6/18)。18日、77の受益者が発表された。
最も少額の寄付は4万ユーロ(約680万円)で、気候変動に関するデータに基づく報告を支援するイニシアチブに対するものだった。最大額は、オーストリア自然保護連盟への160万ユーロ(約2億7000万円)だった。(BBC、6/18)
エンゲルホルン氏は声明を発表し、「私が受け継いだ富の大部分は、民主主義のあらゆる原則に反して、ただ生まれたというだけで私を権力の座に押し上げたが、今、民主主義の価値観に従って再配分されることになる」と述べた。広報担当者によれば、2500万ユーロは彼女の財産の「圧倒的な大部分」だが、未公開の金額も保持しているという。(ロイター、6/18)
◆相続した財産の90%を寄付か
エンゲルホルン氏の祖母ゲルトラウト・エンゲルホルン・ヴェキアットは、ドイツの化学大手BASFを創業したフリードリヒ・エンゲルホルンの曾孫と結婚した。祖母が2022年9月に亡くなると、彼女は莫大な財産を相続した。エンゲルホルン・ヴェキアットの資産は、米誌フォーブスによると、推定42億ドル(約6500億円)に上る。
エンゲルホルン氏は、祖母が亡くなる前から遺産の多くを手放したいと宣言していた。
その額は公表されていないが、2021年当時、エンゲルホルン氏は、自分は何もしておらず、ただ「生まれながらの宝くじ」で幸運に恵まれただけなので、少なくとも90%の財産を手渡したいと語っていた。
オーストリアは2008年に相続税を廃止し、相続税や死亡税を課していない数少ないヨーロッパ諸国の一つ。