「中国製EVの関税100%」から見える今後の米中貿易摩擦の行方

Doug Mills / The New York Times via AP

 米中の間で貿易摩擦が継続するなか、アメリカのバイデン大統領は、日本円で2兆8000億円相当の中国からの輸入品に対する関税を引き上げる措置を発表した。引き上げ対象となる製品は多岐にわたるが、注目されるのが中国製電気自動車(EV)に対する関税率で、現行の25%から4倍の100%に引き上げられる。ほかにも車載用電池やアルミニウムなどが7.5%から25%に、太陽電池が25%から50%に引き上げられ、旧型のレガシー半導体や医療用品なども対象となる。一方、当然のように中国はこれに強く反発し、中国企業の安全と利益を守るため対抗措置も辞さない構えを見せている。今回の決定からはどのようなことが考えられるのか。

◆秋の大統領選を意識した狙い
 秋のアメリカ大統領選まで半年を切ったなか、バイデン大統領とトランプ氏の支持率は依然として拮抗もしくはトランプ氏が若干ながらリードする展開だ。5月末、トランプ氏には刑事裁判で有罪評決が下されたものの、依然として支持率は低下しておらず、今月11日にはバイデン大統領の次男に有罪評決が下されるなど、バイデン大統領にとって好ましい状況ではない。

 そのようななか、アメリカ議会や市民の間では中国への警戒感が日に日に増すばかりで、それは言い換えると、中国に対する厳しい姿勢を示すこと自体が支持率の拡大につながるような状況になっているのだ。

 大統領在任中の2018〜19年に4回にわたって計3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を課したトランプ氏は、秋の大統領選に勝利すれば中国からの輸入品に60%を超える関税を課す可能性があると主張している。バイデン大統領もこの動きに便乗し、中国製EVに関税「100%」と、数字を強く市民にアピールする狙いがあったと考えられる。
 
◆米中貿易摩擦を先導するのは……
 もう一つ考えられるのが、上記とも関連するが、米中貿易摩擦において先行するのはアメリカになり、それは長期的に続くということだ。トランプ氏もバイデン大統領もそうだが、これまでの米中貿易摩擦で先制的な行動を継続していたのはアメリカであり、中国がそれに対抗するというものだった。上述した中国製EVへの関税100%について、アメリカが輸入するEVのうち中国製はわずか2%。そのため、今回の決定は中国を政治的に牽制(けんせい)するだけでなく、アメリカの国益や安全保障に関わる範囲ではアメリカは躊躇(ちゅうちょ)なく「貿易攻撃」を発動していくという意思を示すものだろう。

 11月の大統領選でどちらが勝利しても、アメリカが貿易や経済の領域で中国への攻撃を続けていくことは間違いない。そして、中国にとってもはや大統領選は単なる通過点に過ぎず、習政権はその前提で物事を捉えているだろう。アメリカにとって米中貿易戦争は純粋な「貿易摩擦」というよりは、アメリカのプライドをかけた政治戦争というのが適当かもしれない。

Text by 和田大樹