パレスチナに目を向けたAI生成画像「ALL EYES ON RAFAH」 数十万の投稿も問題視される理由

ASSOCIATED PRESS/Bilal Hussein

どこまでも続く難民キャンプに囲まれた、「ALL EYES ON RAFAH」の文字。

【画像】SNS上で問題視されているAI生成画像の「ALL EYES ON RAFAH」

この画像は2024年5月にInstagramでトレンド入りして以来、世界中で爆発的に拡散されています。

一体、これはどのようなムーブメントなのでしょうか。

「ALL EYES ON RAFAH」とは

ラファとは、パレスチナ自治区ガザ地区南部に位置する区域です。

同年5月26日、ラファではイスラエル軍による空爆を受け、少なくとも45名の死者が出ました。

これに対しイスラエルのネタニヤフ首相は同月27日、「市民に危害を与えないよう最大限の努力をしたが、悲劇的な過ちが起きた」とコメント。

瞬く間に国際社会からは避難が集まり、SNS上での「all eyes on Rafah運動」に繋がりました。

NDTVによるとTikTokでは6月6日現在、「#alleyesonrafha」が付けられた動画投稿数は34万6千件を超えているといいます。

さらにInstagramのストーリーにおける「お題に参加」機能により、この画像は24時間で2900万回以上のシェアという異例な速さで世界中に拡散されました。

このムーブメントのアイコンになっているこの写真は、AIによって作られたものだといいます。

英メディアNBCの報道によると、カタールのハマド・ビン・ハリファ大学で誤情報を研究しているマーク・オーエン・ジョーンズ准教授は画像に対し「間違いなくAIが作成したように見える」と述べています。

その理由として同准教授は、「写実的でないこと」「異常な影が含まれていること」「写っているテントキャンプが不自然に広大で左右対称であること」などを挙げています。

「ALL EYES ON RAFAH」の問題点

AI画像がパレスチナへの連帯ムーブメントに使用され、それを誰もが簡単に拡散できるこの状況は何を意味するのでしょうか。

一見するとポジティブで希望に満ちた動きに思えますが、その影には倫理的な問題が隠されています。

まず、このムーブメントを肯定的に評価する人達は、大きく分けて以下の2つを理由にしています。

第一には、残酷描写の無いAI画像によりSNSの規制を潜り抜けていること。

そして第二には、誰もが気軽に参加できることです。

前者に関しては、これまでパレスチナ人ジャーナリストが投稿してきた痛ましい画像がSNSの規制により直ぐに消去されてしまう問題がありました。

一方でAI画像は、そういったネガティブな要素を排除してメッセージのみを伝えることができます。

またNBCによると、ソーシャルメディア・コンサルタントで業界アナリストのマット・ナバラ氏は、 AIが生成したコンテンツは、従来のデジタルアートの手法に比べ、「非常に短時間で作成することができることも利点」として挙げています。

そして後者に関しては、世界中の人々が同じ感情をシェアすることのパワーが語られます。

ニュージーランドメディアのRNZで、マッセー大学のボド・ラング教授は「何の罪もない市民が殺されていることに同意するのは簡単です。 このスローガンによって、人々は自分の価値観を社会的に受け入れられる形で共有することができるのです」とコメント。

さらに、「社会運動が小規模なものから始まった例はたくさんある」と、その効力を評価しています。

しかし、このようなメリットをもってしても擁護できない倫理的な問題がこのムーブメントにはあると言えます。

第一に、このAI画像が示す光景は実際のラファとは遠くかけ離れています。

画像で示されているテントのようなものや背景の山々は、現実世界でラファの人々が直面している現実とは全く別物であると言えます。

SNS上で「all eyes on Rafah運動」に反対する人々の中でもこういった主張は強く、「ただのイメージに過ぎない」「意味を欠いている」との声が上がっています。

悲惨で残酷な写真の使用を回避できるという利点に関しても、そこから目を背ける責任を問われます。

同時に、ラファの人々が食事をしたり支援を得たりなど懸命に生きている様を捉えた「残酷で無い」リアルな写真の共有をすることもできるでしょう。

そして第二に、ラファで生きる一人一人に名前と人生があるという事実を、AI画像はデータないしは抽象的なイメージの中に隠してしまいます。

ジャーナリストやアーティストらがラファの人々の物語に着目し彼らの命の固有性を訴えているその対極に、AI画像による顔を持たないイメージの拡散があると言えるでしょう。

パレスチナ人でガザ出身のMalaka氏が「私たちのナラティブを見て」と投稿しているように、現地の人々からも強く指摘されている論点になります。

さらに、第三の問題として、パレスチナ問題が「AIが整えた画像で気軽に参加できるトレンド」と化すことにより、一人一人が時間をかけて人道のために思考する機会を奪ってしまうことが挙げられます。

SNSでのシェア自体に意味はありますが、ワンクリックで達成できてしまうというハードルの低さは却って参加者の思考停止を助長しかねません。

特にパレスチナ問題のような長期的な取り組みが必要とされる課題に対しては、トレンドとして捉えるのではなく自分のスタンスを明確にした上で情報のシェアをすべきです。

SNS上ではこの問題を指摘すると同時に、募金活動や情報収集等長期的な支援をする方法を紹介する投稿が増えています。

#alleyesonrafhaのトレンド入りから一週間が経った今、ラファにまつわる新しいAI画像が次々と作られています。

同時に、この一連のムーブメントをきっかけとしてラファの現状を知った人がたくさんいるというのも事実です。

日本においても、パレスチナを支援する募金活動やデモの数は増えています。

SNS上でリアルな情報を発信している人はもっと多いでしょう。

パレスチナ問題をトレンドとして終わらせることなく、共に考え続け、抵抗し続ける人が一人でも増えることを切に願っています。

Text by 楊文果