消滅危機にある方言の与那国語でラップする日本人女性が伝えたいこと
突然ですが、皆さんは日本にいくつの言語があるかご存知でしょうか。
「日本語だけじゃないの?」と不思議に思う方もいるかもしれません。
世界の言語について発信しているエスノローグによると、なんと日本にはアイヌ語や北奄美大島語等、15種類の言語が存在しているといいます。
与那国語でラップする日本人女性
しかし、そんな日本の言語多様性は現在危機に瀕しています。
実は15言語のうち8言語が近いうちに消滅すると言われており、ユネスコによって危機言語に指定されています。
今回ご紹介するのは、その中でも「重大な危険」に瀕していると認定された与那国語を使って活動する女性の物語です。
沖縄県与那国島出身の東盛あいかさんは、俳優や監督として活躍する傍らで、与那国語を使ったラップを創作。
古風なイメージのある与那国語とスタイリッシュなラップのギャップがSNSで注目を集めています。
流暢に与那国語を話している東盛さんですが、子供の頃は与那国語をほとんど話すことができず、大人になってから学び始めたといいます。
島を出て映画業界を志すようになった東盛さんは、「モノづくりをする人間として、自分自身のことを知らなければならない」との思いから与那国語及び与那国島についての勉強を始めました。
家族や島民との会話やLINE、与那国語辞典を用いて学んでいるそうです。
その中でも特に与那国語を使っているのは祖父だといいます。
昔は祖父と日本語で会話していたものの、今ではほとんど与那国語で話しているとのことで、東盛さんの与那国語学習を大きく支えています。
東盛さんが与那国語ラップを始めたきっかけは、消滅危機言語に指定されている与那国語を発信することで皆に興味を持ってもらい、後世に残していきたいと考えたからだそうです。
特にラップという手法に関しては、「若い世代が自分たちのアイデンティティである言葉に対してカッコイイと思ってもらえたら、言葉を学ぶきっかけになる」という、これからの文化伝承の担い手となる若者達に向けた思いがあります。
東盛さんは与那国語の未来について、このように語っています。
「世界には約7000の言語があり、そのうち約40%の言語が消滅危機にあります。
それは与那国語に限らず世界中に『何もしなければ消えてしまう言葉』があるということです。
グローバル化による利便性から共通言語が重視され、経済力の集中や文化の均質化により、各地の言葉が淘汰されています。
しかし、日本が日本語だけ、世界が英語だけになる事が良しとされては、言語の多様性は失われてしまいます。
言葉はいつの間にか静かに消えてしまいますが、ご先祖様達が長い時間をかけて繋いできた土地のアイデンティティである言葉は、独自の文化や思想や価値観を教えてくれます。
与那国語を母語とする人はいなくなるかもしれませんが、歌や文字や映像で残すことはまだできます。
その土地の言葉をどのように保存し、継承するかを考えて実践することが大切だと考えます」
祖先より受け継いだアイデンティティの大切さを発信し、与那国語の存続に貢献している東盛さん。
その姿は、新しい流行と文化のうねりが日々生まれている今日の日本において、悠久の歴史の中で紡がれてきた「変わらないもの」を守るために何をすべきかを私達に突き付けます。