2年連続で不開催 国内外で注目を集めたトライアウトの現在

プロ野球(以下:NPB)のキャンプインが近付く中、ストーブリーグの期間は選手の移籍や年俸、イベントの参加と話題は尽きません。

【画像】2019年に行われたワールドトライアウトの様子と当時プロデューサーを務めていた田中聡さん

特に選手の移籍については大きな注目が集まり、新たなチーム探しには代理人に任せる方法もありますが、多くは選手自らの力でアピールする必要があります。

過去、イベント形式のトライアウトが開催されたことはご存じでしょうか。

2019年11月、東京都内にある明治神宮球場で世界中から集まった選手たちが新天地を求めてプレーしていました。これが「ワールドトライアウト」です。

当時は清原和博さんを監督に据えたことでも話題になりましたが、現状はどのようになっているのでしょうか。

「ワールドトライアウト」プロデューサーを務めた田中聡さん

NewSphereはワールドトライアウトのいまを知ろうと、当時プロデューサーを務めた田中聡(たなか・さとし)さんにお話を聞きました。

田中さんは滋賀県出身。

法政大学を卒業後にアメリカでプレーした後、日本ハムファイターズ、阪神タイガースにも在籍した元プロ野球選手です。

現役時代は打撃では主に代打として、守備では一塁や二塁など内野手として3年間プレーしました。

引退後は野球塾の校長やバッティングセンターの開業、リトルリーグチームの事務局長を経験するなど、現在でも野球に携わっています。

ワールドトライアウトは、田中さんの想いが具現化したものだといいます。

「現役引退後は常に『(球界に)こんなものがあるといいな』を考えてきました。

自分も経験しましたが、今の少年野球、子供たちは自由にチームを移籍できない問題があります。また、無所属(FA)選手にも選択肢があってもいいのではないか、というところから始まりました」

実際のワールドトライアウトは予選会を突破した選手たちが2チームに分かれて、試合形式で実力をアピールする方法で行われました。

主な参加者として横山貴明選手(元楽天)や高木勇人選手(元巨人)、白根尚貴選手(元横浜DeNA)といったNPB経験者や海外から4名の選手が参加していました。

チームの監督には清原さん。

大会アンバサダーに大人気野球漫画「MAJOR」のキャラクター、茂野吾郎を起用したほか、クラウドファウンディングも活用して国内、海外リーグ挑戦権や野球用具の支援など、イベント要素満載の新たなトライアウトの形が完成しました。

コロナ禍でワールドトライアウトは断念

多くのメディアにも取り上げられ、大きな話題になったワールドトライアウト。

今後も規模の拡大が期待されていましたがその翌年、新型コロナウィルスが襲います。

前年のような規模で開催はできないと決断した田中さん。

そこで2020年からは数値計測形式のトライアウトに切り替えました。

コロナ禍のため制限はあったものの、ライブ中継では3000人以上が視聴して注目を集めました。

2020年は高野圭佑選手(元ロッテ)、2021年は牧田和久選手(元西武等)らが参加。

2人はこのトライアウトを経験後、台湾プロ野球の中信ブラザーズでプレーしました。

しかし、2022年からは未開催状態が続いています。

田中さんはこの状況について「ワールドトライアウトが未開催のままなのはコロナ禍が1番の理由です。もっと規模を拡大して続けたかったです。私自身は既にワールドトライアウトの会社を退社しましたが、現在は別の新しい事業を始めています」と語ってくれました。

新しい事業とは一体、どのようなものでしょうか。

ワールドトライアウトを運営した田中聡さんが目指す今後

現在、田中さんは「アストリア大学」というスポーツ関連の仕事で生きていくための大学をコンセプトにオンラインとリアルを活用した教育事業を行っています。

野球を中心として、英語や海外でプレーするために必要な数多くの要素を学ぶことができます。

山本由伸選手や佐々木麟太郎選手のように、海外にプレー機会を求める選手が増加している昨今。

日本には数多くのスポーツビジネス学校があるものの、野球で海外に行くことに特化した学校はほぼありません。

これも田中さん自身の「(球界に)こんなものがあるといいな」という想いが形になっています。

日本人向けのプログラムではありますが、同時に外国人選手が日本でプレーできる機会を増やす事業も準備中だそうです。

ワールドトライアウトは夢半ばに終わってしまったものの、また違った形で日本だけではなく、全世界の野球選手に新しい選択肢を提供しようと田中さんの奮闘は続きます。

Text by 豊川遼