「高すぎる」 受験料が下がった英検と値上がりしたTOEIC、両機関は「公益性」に配慮
多くの人が学習成果を知るために受験する、英検とTOEIC。
出題形式や受験料、受験人数はそれぞれ異なっています。
コロナ禍では、TOEICの受験料が上昇した一方で、英検の受験料は値上げした後に値下げに転じるなど対照的な動きが見られました。
この2つにおける、英語試験の受験料が変化した要因はどこにあるのでしょうか。
英検とTOEIC、受験料と受験者数の推移
コロナ以前とコロナ禍中、コロナ後における、英検とTOEICの受験料と受験者数(英検の場合は志願者数)を見てみましょう。
公益財団法人日本英語検定協会に取材したところ、1級を受験する人は少なく、一般的なのは2級とのことでしたので、ここでは2級の受験料の推移を取り上げました。
TOEICに関しても、一般的なListening & Reading Testの受験料の推移を紹介します。
英検2級検定料(2級、本会場、正規税込検定料)
2019年:6,500円
2020年:7,400円
2021年:9,700円
2022年:8,400円
2023年:8,400円
(2023年度学習支援キャンペーン):8,300円
英検志願者数*推移 (実用英語技能検定、英検IBA、英検Jr. の志願者数の合算)
2019年度:3,924,841
2020年度:3,678,161
2021年度:4,102,668
2022年度:4,205,920
TOEIC Listening & Reading公開テスト受験料(税込)
第162回~第248回(2011年5月~2020年3月):5,830円
第249回~第277回(2020年4月~2021年9月):6,490円
第278回・第279回~(2021年10月3日~):7,810円
TOEIC Listening & Reading Test受験者数推移(公開テストと団体特別受験制度の合計人数)
2019年度**:2,205,000
2020年度***:1,533,000
2021年度:2,123,000
2022年度:1,971,000
*日本英語検定協会が発表するのは「志願者数」。試験に申し込んだが当日欠席した人も含む。
**2020年3月の公開テストはコロナで中止
***新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に伴う影響
英検が受験料を値下げした理由
日本英語検定協会によれば、新型コロナウイルス感染症が拡大した当時、アルコール消毒液などをはじめ、感染対策のため試験運営に大きな費用がかかりました。
また、コロナ禍によりこれまで試験会場として借用していた多くの学校を利用できなくなる中、試験を中止することなく開催しようと学校以外の会場を借りたため、会場費が増大。
さらに感染対策で受験者同士の間隔も空けなければならなかったため、受験を希望する方の受験機会を確保するためにより多くの会場が必要となったのです。
同協会は毎年、かかる費用をもとに来期の検定料を決めているとのこと。
近年高騰している、印刷代や物流コスト等は検定料の値上げの要因となりますが、その一方で受験者が増えれば利益も上がるため、検定料を抑えることができます。
公益法人という団体の性質上、収益が出れば公益事業に還元し、かかる費用は検定料に反映することとなります。
そのため、年度末ギリギリまでこうした諸事情を考慮した上で、次の年度の検定料を決めるのです。
コロナ感染はまだ収まっていませんでしたが、同協会が2022年に検定料を値下げしたのは、早めの会場借用等のコスト削減の努力の結果、経費を抑えられるめどがついたためでした。
TOEICの受験料が下がらない理由
一方、TOEIC L&R公開テストの受験料は2011年5月から2020年4月まで変わらなかったのですが、最近の2期では上昇しています。
これはなぜでしょうか。
試験を運営している国際ビジネスコミュニケーション協会に取材すると、以下の回答がありました。
「新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行されたことに伴い、一定の間隔を確保した座席配置や会場での検温実施等は撤廃しました。
一方、会場施設内のアルコール消毒液の設置をはじめとする感染予防策は継続しており、コロナ対応によるコストは現在でも発生しています。また、新型コロナウイルス感染症に罹患された方に対する振替受験も対応を継続しているためです」
受験料に関しては、2023年10月現在、値下げの予定はないとのことです。
その理由として同協会は、「新型コロナウイルス感染症対策に伴うコスト以外にも、会場借用料、人件費、セキュリティ対策に伴うシステム費用、さらにはエネルギー価格の高騰に伴う資材コストや配送コスト等の増加の影響もある」と説明しました。
しかし、現時点でさらなる値上げは予定していないとのことです。
上記で見たように、英検の受験料は2021年12月に値下げされました。
一方、TOEIC L&R公開テストの受験料が値上げされたことに反対する声がありましたが、これについて国際ビジネスコミュニケーション協会は、「引き続きコスト削減や試験運営の効率化・合理化を進めながら、安定的に事業を運営するとともに、2023年4月に提供を開始したデジタル公式認定証の新サービスをはじめ、今後も利便性向上につながるよりよいサービスを提供できるよう努めていく」とコメントしています。
英検とTOEICの違い
英検の志願者数とTOEICの受験者数の推移を見ると、英検は毎年増加しています。
ですがTOEICの場合、2020年に受験者数が落ち込んだ後、コロナ禍以前の人数に戻っていません。
受験料が上がり、下がっていないことがその一因なのかもしれませんね。
新型コロナウイルスの感染拡大がようやく収まりつつあるとはいえ、今度は世界的な原材料の高騰、ロシアによるウクライナ侵攻など様々な要因で多くの物やサービスの値上げラッシュが続いています。
試験の受験料も、こういった世の中の状況に大きく影響を受けるのですね。
取材により、日本英語検定協会と国際ビジネスコミュニケーション協会のどちらもが、公益性の高さを維持しつつ、コスト削減に向けて努力していることが明らかになりました。
不安定な世界情勢下では近い将来、受験料の大幅な下落は難しいかもしれませんが、英語を学んでいる人が受験しやすい環境を提供するため、両機関の努力が続くことを期待します。