米国に野球留学する佐々木麟太郎 成功の大前提は「学業」

写真はイメージ

猛暑が続いた夏が終わり、涼しい秋を迎えた2023年10月。

プロ野球では日本一を決めるべく、クライマックスシリーズ、日本シリーズと短期決戦が続いていきます。

面白い試合が続く中で、もう1つの話題といえばドラフト会議です。

2023年は高校生139名、大学生172名の選手がプロ志望届を提出しました。

高校通算140本塁打の佐々木麟太郎選手がアメリカへ

10月26日のドラフト会議開催を、多くのファンが心待ちにしていることでしょう。

しかし、提出された選手リストの中には、あの選手の名前がありませんでした。

高校通算で歴代最多となる140本塁打を記録し、ドラフト当日に1巡目指名が確実視されていた佐々木麟太郎選手(ささき・りんたろう/花巻東高校)です。

佐々木選手はプロ野球には進まず、アメリカの大学に野球留学をすることが発表されました。

アメリカ大学野球のしくみ

2023年10月13日現在、佐々木選手がどこに進学するか明言されていませんが、すでに日米両メディアでは大学予想が行われています。

アメリカの大学でプレー経験を積んだのち、佐々木選手はメジャーリーグ(以下:MLB)のドラフト会議に最短で2026年から参加できます。

過去には、大谷翔平選手(ロサンゼルス・エンゼルス)のように日本のドラフト注目選手が直接、高校卒業後MLBに行こうとしたことはありますが、野球留学は珍しい事例です。

ここでアメリカの大学野球について見てみましょう。

日本のように地域ごとに大学野球組織があり、大きく以下の5つがあります。

NCAA(National Collegiate Athletic Association)

NAIA(National Association of Intercollegiate Athletics)

NJCAA(National Junior College Athletic Association)

CCCAA(California Community College Athletic Association)

NWAC(Northwest Athletic Conference)

アメリカの大学野球で名前を聞く機会が多いのはNCAAで、ここでプレーする多くの選手がMLBドラフトで指名を受けます。

2023年、シカゴ・ホワイトソックスから11巡目指名を受けた西田陸浮(にしだ・りくう/東北高校出身)選手も、このNCAAでプレーしていました。

また、アメリカ大学野球の特徴として試合数が多いリーグ戦が挙げられます。

組織によって開催時期や試合数は違いますが、概ね2月〜6月の間で約40〜60試合が行われます。

たとえリーグ戦が終わっても、チームによってはポストシーズンやワールドシリーズなど、プロ野球のように試合が続くところもあるのです。

その一方で日本の大学野球は、春と秋にリーグ戦がありますが、その多くは週末開催で全体の数も多くありません。

果たして、日本と大きく仕組みが違う環境で佐々木選手は成功するでしょうか。

アメリカ野球留学経験者からのメッセージ

今回の佐々木選手のアメリカ留学報道を受けて、NewSphereは野球でアメリカ留学を経験した原田翔誉(はらた・しょうよう)さんにお話を聞きました。

ホストファミリーと原田翔誉さん(本人提供、以下同)

原田さんは青森県むつ市出身で、青森山田高校でプレーした経験があり、卒業後に渡米しています。

2023年10月現在、大学4年生で野球に区切りをつけて、経営者になるべくオレゴン州の大学で学んでいます。

中学当時からMLBに憧れを持ち、動画を通じて選手のプレーを真似していたという原田さんは長い間、アメリカに対して興味を持っていました。

高校2年生の時、父親から「アメリカでプレーする道もあるよ」と選択肢を提示されたことで、早い段階から野球で海外に行く決断をしたそうです。

原田さんは当時について、「以前からアメリカに興味がありましたし、新しい環境で新鮮な気持ちでプレーしたいという気持ちがあったので決めました。もし、父から話がなければ、そのまま日本の大学でプレーしていたと思います」と振り返りました。

渡米を決断した原田さんは、大学野球のセレクション(入学試験)を受けて、コミュニティカレッジに進学。

NWACのリーグ戦に参加して経験を積みます。

リーグ戦で打席に立つ原田さん

そこで原田さんは、自身のプレースタイルを変えることにしました。

打撃を得意としていましたが、周囲には長打を打てる選手が揃っていたため、埋もれないために守備を武器とするスタイルに変えたのです。

その結果、原田さんの出場試合数が増えました。

生き残るために考え抜いた、原田さんの決断が上手くいった形となります。

守備では主に二塁と外野を守り、再度、試合経験を積む日々を過ごします。

そして、プレーする間、原田さんが感じた日本野球との違いに、指導者の声掛けがあると言います。

「日本ではベンチでエラーした選手を叱責する指導者がいますよね。その一方でアメリカではたとえ、エラーしても怒らずにアドバイスをくれます。ミスした状況説明から『このようにすればよい』と丁寧に教えてくれるので、失敗を恐れずに堂々とプレーができます」

こうしてアメリカ大学野球を経験した原田さん。佐々木選手の野球留学について次のように話しました。

「野球留学が正解か否かは本人次第だと思います。日本と違って自分の時間が多くなるので、どのように時間を活用するかがカギになります。また、野球だけではなく、勉強もしなければなりません。学業をおろそかにすると試合はおろか、練習にすら参加できない場合もあります」

同時に佐々木選手には、野球環境が整っている強い大学でプレーしてほしいと話します。

その理由として原田さんは、「よい指導者に巡り合えることができ、選手としての可能性も広がるため」と語りました。

日本とは野球環境が違うとはいえ、文武両道は共通のようです。

どうか、今回の原田さんのメッセージが佐々木選手ご本人に届いてほしいものです。

高校通算140発男の決断はいかに。今後の進路決定が注目されます。

Text by 豊川遼