インドが推すスーパーフード「ミレット」とは G20の夕食会にも登場

Manish Swarup / AP Photo

 9月9日、主要20ヶ国・地域首脳会議(G20サミット)に参加する各国首脳が開催国インドに到着すると、現地の人々が滑走路の上で伝統的なボリウッドの歌と踊りを披露し、歓迎した。そしてその後の夕食会では、インド文化を代表するメニューがふるまわれた。それこそ、何百万人ものインド人にとっての主食となる質素で素朴な穀物の「おもてなしバージョン」である。

 「ミレット」はインドがスーパーフードとして提唱している穀物だ。用途が広くどんな気候でも育ちやすく、調理次第では世界の指導者たちでも十分美味しく味わえるものだ。アフリカ連合のG20加盟に関わる激しい議論が交わされたのち、ミレットを使ったさまざまな料理が提供された。

 ニューデリーの中心部にある広大なエキシビジョンセンター、バーラト・マンダパム(Bharat Mandapam)で開催された夕食会では、世界の指導者らに素晴らしい食事がふるまわれた。

 ヨーグルトとスパイスチャツネをトッピングしたミレットの葉のチップス、ミレットのチップスとカレーリーフを和えたケララ州の赤飯、イチジクと桃のコンポートを添えたカルダモン風味のミレットプディングなど、ベジタリアン料理が並んだという。

 ナレンドラ・モディ首相は2023年を「ミレットの年」と宣言し、国連もそれを支持している。いまやホワイトハウスもこの穀物に注目しており、6月にはベジタリアンであるモディ首相が招かれたホワイトハウスの公式晩餐会において、約400名の招待客にミレットを使ったベジタリアンメニューが提供された。

 そもそもミレットは数千年前からインドで栽培されてきたものの、トウモロコシや小麦を好むヨーロッパ系入植者によって、ほとんどが脇に追いやられてしまった。現在、ミレットに注目が集まっているのは、そんな丈夫でヘルシーな作物の再興を願う努力の賜物だとみられる。

 タンパク質やカリウム、ビタミンBが豊富な上にグルテンフリーであるミレットは、ロティやフラットブレッドに練り込んだり、ドーサや香ばしいクレープ用の生地にしたり、米と同じように茹でてスパイスを効かせたレンズ豆(ダル)と一緒に食べたりと、調理法も柔軟性に富んでいる。

 何世紀にもわたり日本やヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアなど世界中で栽培されてきた雑穀だが、主な生産国は昔からインド、中国、サハラ以南のアフリカである。

 ミレットには約9種類あり、最大の生産国であるインドではそのすべてを栽培している。ORFの報告書によれば、インドでの生産量は南アジアの80%、世界全体の20%を占めている。

 ミレットは痩せた土壌や干ばつ、過酷な生育条件にも強く、肥料や農薬を大量に使わなくてもさまざまな環境に適応しやすい。また、ほかの穀物ほど水を必要としないため、特に乾燥した地域では持続可能な選択肢となる。

 モディ首相の統治下で、この穀物はある種の復活を遂げた。モディ首相は6月開催のG20会合で、インドの食料・農業政策は「原点回帰」と「未来への行進」を合わせたものだとした上で、「ミレットは新しいものではなく、何千年も前から栽培されてきました。しかし、我々の選択はマーケットとマーケティングに大きく影響され、伝統的に栽培されてきた作物の価値を忘れてしまったのです」と述べている。

 政府によるミレットの普及推進が進むなか、インド全土でさまざまなスタートアップがミレットを使用したスナック専門のカフェを展開した。インスタグラムでも、シェフやボリウッドのセレブがレシピを投稿したり、雑穀の栄養価やダイエットに効果があると注目している。

 インドの閣僚らも、決して派手とは言えない穀物がグローバルなゲストに認知されるよう働きかけている。

 ひときわ目を引いたのは、世界のハイテク億万長者で慈善家としても知られるビル・ゲイツ氏が今年インドを訪問した際、ミレットを使ったキチディ(レンズ豆と米で作るインドのシチュー)作りに挑戦していたことだ。

Translated by isshi via Conyac

Text by AP