ウクライナの子供の戦時日記が公開 アンネ・フランク潜伏の地で

Peter Dejong / AP Photo

 アンネ・フランクがナチスの残忍な占領を逃れ、家族とともに隠れ家で暮らしながら第二次世界大戦を日記に綴った町で、ウクライナの戦争をテーマとした「ウォー・ダイアリーズ」展が開催中だ。4分の3世紀以上の時を越え、アンネの苦境が蘇るような凄惨さが感じられる。

 アムステルダム・シティ・ホールで8月17日から9月24日まで開催されるこの展示会では、壊滅的な被害を及ぼしている戦争に巻き込まれた子供たちの体験という形で、ウクライナの戦争の様子を知ることができる。

 発案者のクリスティナ・クラノフスカ氏はオープニングで「この展示会は、子供たちの目を通して痛みを伝えるものです。大人のみなさんの心の芯に訴えかけ、ロシアによる戦争が子供たちにもたらした苦しみや悲しみを知っていただけると思います」と述べている。

Peter Dejong / AP Photo

 展示会では、アンネ・フランクがアムステルダムの運河沿いに建つ家の裏の隠れ家で執筆したような手記のほか、写真や動画をはじめ、ウクライナの子供たちが戦時下の日々に経験したトラウマ的な出来事を記録、編集した現代的な作品も展示されている。

 その一つが、港町マリウポリで21日間にわたり包囲攻撃を経験したムィコラ・コステンコさん(15歳)の制作したアートワークだ。

 ロシアは昨年2月に隣国ウクライナへの侵攻を開始した。南部の南町に対する容赦ない攻撃は、すぐにでもウクライナを壊滅させようというプーチン大統領の意思を象徴する出来事となったが、同時にマリウポリ市民43万人の抵抗力と粘り強さの象徴ともなった。

 その当時の絵が、ノートを破った紙切れに青いボールペンで描かれている。すべてコステンコさんの作品だ。その一つには、家族とともに命からがらマリウポリを脱出するまで、ロシアの爆撃を逃れて身を寄せていた小さな地下室が描かれている。

 コステンコさんは「どの絵も魂を込めて描きました。これは僕がマリウポリで乗り越えてきたものだから。僕が見たもの、聞いたものだから。これは僕の経験であり、希望なんです」と語る。

 学芸員のカーチャ・テイラー氏は日記やアートについて、子供たちにとってはストレスに対処するためのメカニズムとして有効に働いていると指摘する。同氏は「私たちはメンタルヘルスがどうだ心理療法がどうだとあれこれ言いますが、子供たちは、私たちなんかよりもちゃんとやるべきことを心得ています。展示されている日記やアート、写真、動画は、多くの子供たちにとって癒し効果を持つ作業の一つなのです」と述べている。

 ウクライナで戦争に巻き込まれた子供たちの窮状を受け、各国からはすでに厳しい非難の声があがっている。ウクライナ当局によると、殺害された子供の数は500人を超える。

Peter Dejong / AP Photo

 一方ユニセフは、ウクライナの子供のうち推定150万人がうつ病、不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)をはじめとするメンタルヘルス関連の問題を発症する危険性があり、長期的な不調に苦しむ恐れがあると指摘している。

 国際刑事裁判所は3月、プーチン氏とリボワ・ベロワ大統領全権代表(子供の権利担当)に対し、ウクライナから子供を誘拐したことについて個人的な責任があるとし、逮捕状を出した。

 コステンコさんは「僕が乗り切ってきた感情を残しておくための手段でもありました。これからも覚えていられるように。大切なことですから」と言う。絵を描くことはトラウマ的な出来事を整理し、決して忘れないよう記録するための手段だ。心を癒すことでもある。

 日記の執筆者として最年少、イェホル・クラフツォフさん(10歳)もまた、包囲戦の舞台となったマリウポリに住んでいた。日記の横に展示されている文章には、建築業者になることを夢見ていたと記してある。しかし包囲攻撃から生き延びたという経験をきっかけに、考えが変わった。

Peter Dejong / AP Photo

 そこには「占領中、地下室から出るととてもお腹が空いていて、世界のみんなをお腹いっぱいにできる料理人になろうと決めた。誰もが幸せで、戦争など起こらないように」と書かれている。

By MIKE CORDER Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP