思春期の環境がカギ? 子どもをバイリンガルに育てるために必要なこと

 これからの時代、わが子をバイリンガルに育てたいという親は少なくないだろう。ましてや、夫婦が別言語を母国語として育ったのであれば、なおさらのこと。

 では「子どもをバイリンガルにするために」必要なこととは何だろう。すぐに浮かぶのは幼少期からの外国語教育だ。そこで、疑問が生ずる。たとえば日本人同士の夫婦が日本でバイリンガルを育てようとするならともかく、親の一方が外国語圏出身ならば、普通にその言葉で会話をすればOKなのでは?

「さにあらず」と報じるのはジャパン・タイムズ。では、家庭で生の「第二言語」に触れて育つ「恵まれた」子どもの学習を妨げる要素とは何か。

【ある、バイカルチュラルな家庭の物語】
 ピーターとマキとレオの一家の実例を見てみよう。イギリス人のピーターと、日本人のマキが「息子をバイリンガルにするために」取ったのはごくシンプルで自然な方法だった。父親は、息子と英語でしか話さず、英語の習得を助ける。母親は、息子と日本語でだけ話す。

 2人は、英語学習の習慣づけに苦心し、ビデオや本や様々な道具を駆使して、息子の教育に熱心に取り組んだ。その甲斐あって、レオはイギリスに住む父親の親戚とも、難なくコミュニケーションが取れるようになった。

 ところが、思春期を迎えたとたん、レオは英語に興味を失った。父親に対しても日本語でしか話しかけず、叱ると、母親としか話さなくなった。親がどんなに骨を折っても、中高生のレオに英語の勉強をさせることはできなかった。

【鍵は、コミュニティへの愛着と所属感?】
 これについて、バイリンガルになれるかどうかは、「単なる語学の問題ではない『アイデンティティ』が関わる難問だ」と、語るのは、キャロル・イヌガイ氏。同氏は、25年以上日本で教べんをとった後、現在は国際バカロレア機構で活躍する言語と学習の専門家だ。

 しかし、同氏に、思春期の子どもの「皆と同じ」になろうとする心理に注目させたのは、職業的興味よりも、バイカルチュラルな子どもの母親としての目線だった。

「アイデンティティは、語学とちがって、レッスンでは身に付かない。日本人になろうとするレオの必死さを親が理解しなかったことが、さらに状況を悪化させたのだろう」と彼女は語っている。

 では、どうしたらいいのか。日本で英語教育を行う複数の識者は、「鍵は、環境にある」と指摘している。自分が所属する国の人間としての自信と、複数の異なる文化やコミュニティに所属するという充実感が必要だという。

【使わないものは要らない 自分だけ浮くのはイヤだ?!】
 大手ソーシャルニュースサイト「レディット」には、ジャパン・タイムズの記事に対し、同じ立場からの共感が多数書き込まれた。

・アジア系アメリカ人ならよくわかるよ。自分も、中学生になると同時に、アジア人としてのアイデンティティを捨てたから。みんなと「適合」したかったんだよね。たいてい、大人になってから後悔するんだけど、それが思春期ってやつでしょ。

・ハワイに住む日系人。こちらも同じだね。でも「親の文化に反旗を翻す」なんて大げさなものじゃないと思うよ。ただ、ハワイで、英語をしゃべる人たちと一緒にいて、日本語に手が回らなくなっちゃうだけ。大人になると、片言でもなんでも、仕事に「使う」人は多いけど。

・ヨーロッパの血が数えきれないくらい混じってるけど、しゃべるのは英語だけ。別に、「反抗してる」つもりはないな。

・カナダの日系人。ここではちょっと事情が違うな。第二次世界大戦後、日系カナダ人は日本に送り返されるか、へき地にバラバラに送られるかだったから。ぼくは3世だけど、親も片言しか教わっていないって。今じゃ、からっきし。フランス語ならともかく、ここでは日本語も仕事の役に立つわけじゃないしね。

・結局、言語ってコミュニケーションの手段でしょう? 使う場所もないのに勉強するのは苦役以外のなにものでもないよね。

 つまり、もしも、あなたがバイカルチュラルな子どもを育てる立場なら。勉強を教えるのと同時にやるべきことが3つある、ということだ。第1に、アイデンティティの確立に悩む子どもに寄り添う。第2に、複数の文化的背景のそれぞれが「活きる」環境を用意してやるように努める。そして第3に、思春期の子どもが親のいずれかの文化に興味を失っても、絶望せずに、長い目で見守る。

 記事でも述べられているように、今勉強しないからといって、一生、言語獲得のチャンスを失うわけではないのだから。

Text by NewSphere 編集部