北朝鮮のミサイル実験失敗、米軍のサイバー攻撃の仕業か

 故金日成主席の生誕105周年を祝う「太陽節」の翌日16日に北朝鮮が打ち上げたミサイルは、発射後数秒で爆発し失敗に終わった。実はこれも含め、このところの北朝鮮のミサイル実験の失敗は、アメリカのサイバー攻撃によるものではないかという見方が広がっている。北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止する決定打とはならないものの効果に期待する専門家もおり、メディアの注目が集まっている。

◆米政権は多くを語らず。静かに進む米のミサイル破壊工作
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によると、2014年にオバマ前大統領は北朝鮮のミサイルプログラムに対するサイバーおよび電子攻撃を強化するようペンタゴンに命じており、この方針はトランプ政権にも受け継がれているという。テレグラフ紙は、アメリカによる北朝鮮のミサイル破壊工作は「left-of-launch(発射の残骸)」戦略と呼ばれ、電磁的に、またはサイバー攻撃を用いて、発射直後のミサイルを攻撃するものだと説明している。

 日本を訪れたペンス米副大統領は、16日のミサイル実験へのサイバー攻撃の可能性をCNNに問われ、直接の返答を避けたものの、米軍が北朝鮮のミサイルへの破壊工作をするための技術を有していることに関しては否定も肯定もしなかった。テレグラフ紙によれば、ペンス副大統領の日韓訪問に同行している外交政策アドバイザーは、ミサイル実験に驚きはなかったと述べたうえで、「ミサイル発射の前も後も、我々のインテリジェンスは良好だった」と意味ありげな発言をしている。

 NYTは、さまざまな部品や揮発性の燃料の寄せ集めともいえるロケットに不具合が起こることは珍しくはなく、ミサイル実験には失敗がつきものとしながらも、アメリカのミサイル破壊工作プログラムが加速して以来、北朝鮮がミサイル発射に失敗する率は88%に達したと報じている。また、ミサイル開発の初期段階では通常失敗が多いものの、プログラムが成熟し技術者が経験を積むにつれ、大きな失敗が減って成功が習慣化するものだが、北朝鮮の場合はその逆を行っているとし、少なくとも最近の失敗に関しては、アメリカの破壊工作が背後にあるだろうと見ている。

◆北のサプライチェーンはウイルスだらけ?
 破壊工作の具体的な方法として、米シンクタンク、ニューアメリカのフェロー、ピーター・シンガー氏によれば、まずサプライチェーンを狙って、北朝鮮が使っている部品やシステムに欠陥を埋め込むやり方があるという。他の方法としては、システムを破壊したり、装置を妨害したりする偽の情報を伝えるマルウェアを使う方法も紹介されている(CNN)。

 テレグラフ紙によれば、国際制裁により輸入ができない状況だが、北朝鮮はミサイルの内部コントロールのための高性能な電子装置を海外に頼っている。軍事アナリストのランス・ガトリング氏は、北朝鮮のサプライチェーンの部品は意図的に欠陥品だったり、ウイルスに感染させられていたりする可能性もあるとしている。

◆効果には疑問も。米朝サイバー戦となるか?
「left-of-launch」戦略には莫大な金額が投入されているが、NYTによれば、期待されるほどの効果があるのかという疑問も出ている。クリントン政権で国防長官を務めたウィリアム・J・ペリー氏は、長距離弾道ミサイルの開発を止めるのには非常に有効だと述べている。しかし、度重なるミサイル発射実験の失敗によって、金正恩氏はアメリカの関与を疑い、内部のスパイ探しも始めたと報じられており、北朝鮮のサイバー攻撃に対する防衛力が増していることも事実だという。

 北朝鮮ウォッチャーとして知られるマーティン・ウィリアムス氏は、北朝鮮の科学者たちが、コミュニケーション・システムをハッカーから守る、量子暗号デバイスを開発したと報告している(NYT)。これにより海外の諜報機関がリアルタイムで北朝鮮のシステムを監視して影響を与えることができなくなる可能性もある、と同氏は述べている。今後の米朝の対決は、サイバーの世界でもさらに激しくなりそうだ。

Text by 山川 真智子