北朝鮮の核脅威、アメリカが取りうる対抗策とは 中国に圧力、先制攻撃、扇動工作…米識者

 過去、いくつかの米政権が北朝鮮の核施設への先制攻撃を考えたと言われているがどれも実現していない。しかし、6日にアメリカがシリアに対してミサイル攻撃を行ったことで、北朝鮮への軍事行動もあり得るという見方も出てきた。加速化する北朝鮮の核・ミサイル開発に対し、トランプ政権は今後どう出るのか。米メディアが、考えられる選択肢を報じている。

◆アメリカついに動き出す?シリア攻撃は北への警告
 アトランティック誌によれば、識者のなかには、トランプ政権の1期目が終わるまでには、北朝鮮は核弾頭を搭載した長距離弾道ミサイルでアメリカを狙えるようになるという見方もあるという。すでに北朝鮮の核開発はアメリカにとって目前の危機であることは間違いないだろう。

 ロイターによれば、ティラーソン米国防長官は、アメリカのシリア攻撃は、他国、特に北朝鮮への警告だとしており、北朝鮮が危険をもたらすのであれば、アメリカは行動を起こすことになるだろうと発言した。さらに、米海軍の空母打撃群も朝鮮半島に向かっており、北朝鮮のミサイル実験への牽制だと指摘されている。米国家安全保障アドバイザーのマクマスター大統領補佐官は、トランプ大統領が北朝鮮の脅威に対する選択肢の見直しに取りかかると発言しており、政権は真剣に対策に取り組み始めている。

◆場合によっては日本も犠牲に?アナリストが示す選択肢
 トランプ政権が取り得る北朝鮮への対応として、USニューズ&ワールド・レポートは、米シンクタンク、ランド研究所のシニア・ディフェンス・アナリスト、ブルース・ベネット氏の5つのオプションを紹介している。

 オプション1は、アメリカが中国に圧力をかけ、北朝鮮が核・ミサイル開発を止めるかスピードを緩めるまで経済制裁をさせることだ。中国が嫌がるなら「2次制裁」としてアメリカが中国企業に制裁を課すと猛プッシュすることも可能だが、最終的には米中制裁合戦になってしまうので米政権は気乗りがしないだろうとしている。オプション2は、北朝鮮問題を中国に丸投げしてしまうことだが、恐らく好転することはなく、むしろ政権が弱腰と見られてしまう危険性があるとしている。

 オプション3は、核排除を優先と考え、中国に軍事介入させて金正恩政権を潰し、親中政権を立てさせることだ。しかしこれは韓国が納得するはずがなく、地域を巻き込んだ戦争につながる恐れもある。また、中国が武力行使すれば北朝鮮があちこちに核兵器を撃ち込んでくるという恐れもあるうえ、アメリカの信用失墜にもつながり、うまくいかないだろうとしている。

 オプション4は、アメリカによる北朝鮮の核・ミサイル関連施設への先制攻撃だ。問題は、数百あるとされる北朝鮮の核・ミサイル関連施設への「ピンポイント攻撃」が不可能であることで、90%を叩いたとしても残りの10%から、韓国、日本を狙って核攻撃が行われる可能性もある。また、報復として通常兵器でソウルが狙われることは確実で、甚大な被害が韓国に出ると見られ非常に危険だ。オプション5は、北朝鮮のエリートに情報戦を仕掛け、金王朝転覆を試みさせることだ。しかしこれには時間がかかるし、韓国の次期大統領が反対しそうで、米韓同盟を傷つけることにもなりかねないとしている。

 ベネット氏は他にも、トランプ大統領が韓国を促して南北統一のための好条件を北に提案させ、北朝鮮の指導者たちに年金を与えて引退させることを選択肢として挙げる。それによって、北朝鮮の生活水準を向上させ、60年間の対立に終止符を打つというものだ。当然金王朝は噛みついてくるかもしれないが、トランプ政権にとって、残忍で不安定な指導者以外の選択肢を北のエリートに提案することは、北朝鮮の核兵器に蓋をしてアメリカ国民を守ることができる、より現実的で安全な方法ではないか、と述べている。

◆カギは中国。だめなら軍事行動か?
 NBCニュースは、北朝鮮の核開発への対応として、国家安全保障会議からトランプ大統領にいくつかの選択肢のプレゼンがあったと報じている。ホワイトハウスは中国の圧力に期待しているが、うまく行かなかった場合には、以下のオプションがあるとのことだ。

 ひとつは、韓国に核兵器を配備することだ。識者のなかには、北を煽るだけで、朝鮮半島の非核化目標に反するという見方もあるが、韓国のいくつかの世論調査では、賛成が半数に達したという。次は、金正恩氏と核、ミサイル開発に関係する上級指導者の暗殺だが、これに対しては中国の反応が懸念され、その後の展開も全く見えないため危険だと見る識者が多い。最後のオプションは、米韓の特別部隊が秘密裡に北に潜入し、主要インフラを破壊することだ。橋などを爆破すれば、可動式ミサイルの動きをブロックすることもでき、アメリカが軍事行動に出るとすれば、最良の戦略だと元NATOの司令官は指摘し、特殊部隊とサイバー攻撃の合わせ技になるだろうと見ている。

 4月15日は、北朝鮮建国の父、金日正氏の105回目の誕生日であり、ロイターは新たなミサイル実験などが行われるのではないかと報じている。頻繁に行われるミサイル発射に驚く人も減ったが、日本がすでに射程圏内に入っている事実を踏まえ、今後の北朝鮮の行動とアメリカの対応を注視していくべきだろう。

Text by 山川 真智子