パイプラインに反対、アメリカ先住民への支援が世界に拡散 「ダイベストメント」とは?

 アメリカ先住民スタンディングロック・スー族の居留地内に設営された、広大な雪原に佇むキャンプサイト。多くのティーピーやテントがつくられ、立ち並ぶ数百種の国旗が、氷点下の風にたなびいている。大陸中から集まった人々が民族の壁を超え、そこで共に暮らしているのだ。これは「ダコタ・アクセス・パイプライン」の建設に対する抗議運動。トランプ氏が1月24日に出した大統領令を受け、いよいよ建設は完成へと動き出した。しかし国際的ムーヴメントとなった抗議運動は、さらに勢いを増している。一体何が起きているのか。

◆「ダコタ・アクセス・パイプライン」と抗議運動
 「ダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)」は、アメリカ合衆国ノースダコタ州からイリノイ州までをつなぐ、石油パイプラインの建設計画。事業主エナジー・トランスファー・パートナーズによると、全長約1886kmにわたる同計画は、地域への経済効果と雇用の増加を創出するとされる。

 抗議運動を率いるのは、ノースダコタ州の建設ルート近くに住む先住民スタンディングロック・スー族だ。彼らの水源ミズーリ川の底に敷設されるパイプラインは、「命の水」を汚染し、条約で守られた神聖な土地を破壊するとして反対している。

 パイプラインの原油漏出事故は決してめずらしいことではない。アメリカでは1997年から2016年の間で、11,458件の事故が発生している(米運輸省・パイプライン有害物質安全庁統計)。当初の建設ルートは州都ビスマーク付近を通る予定だったが、住民の飲み水の安全性を脅かす可能性があったことなどから、スー族の同意なく変更となった。

◆歴史上最大のアメリカ先住民によるムーヴメント
 全米の先住民部族を動員した前代未聞の抗議運動は、スタンディングロックを拠点に、昨年4月の工事開始と共に始まった。キャンプサイトでは祈りを中心とした平和な暮らしが営まれ、人々は武器を持たずに反対を訴える。

 日本でサポート活動をするJapan Stands With Standing Rock代表の青木遥香氏は、昨年10月、ニューメキシコ州から一人車を運転して現地を訪れた。「奮い立っているけれど、そこにいる人達は生身の人間」と感じたキャンプサイトでは、泣きながら感謝をする人もいたと言う。もともとインディアンジュエリーのバイヤーとしてアメリカ先住民と深く関わりを持ってきた同氏は、身近な友人達の怒りが原動力となり、帰国後すぐに同グループを立ち上げた。
 
 世界中から非難を浴びているのが、警察による抗議者への暴力だ。昨年9月デモクラシー・ナウ!がその衝撃的な映像を放送してから、抗議の声はSNSで一気に輪を広げ、集まってきた部族や環境活動家、退役軍人、国内外からの応援者達は、時に1万人を超えた。

 そして現地は11月、最も危機的な局面を迎える。氷点下のなか警察が大量の水を抗議者へ浴びせ続け、ゴム弾や催涙ガスで攻撃を繰り返し、意識不明を含む300人以上が治療を受ける事態となったのだ。これまでの負傷者たちの中には、衝撃手榴弾で腕を切断する寸前となった女性、ゴム弾に撃たれ片目をほぼ失明した人々が含まれ、約700人が「不法侵入」などで逮捕されている。

 それでも「水の保護者」たちが非暴力を貫いて抗議を続けた結果、オバマ前政権は昨年12月4日、現ルートの建設を却下することを発表した。それに伴い、代替ルートの考案を前提とした環境影響評価の実施を命じ、完了するまでは工事を中断するという方針をとっていた。

 しかしトランプ氏が1月24日に署名した大統領令を受けて、アメリカ陸軍省は2月8日、建設の最終許可を承認すると正式に発表。すでに95%以上が完成していたパイプラインの最終区間を完了させる工事がその翌日にも再開された。

 極寒のスタンディングロックで今も抗議活動が続く中、スー族は環境影響調査打ち切りの違法性を根拠に、法的措置をとって闘い続けるという声明を出した。しかしロイター通信は、その道のりは困難なものになりそうだという見方を示している。法廷ではこのようなケースにおいて、大統領権限に基づいた形で判決がなされることが一般的だからだ。一方で、先住民環境ネットワーク代表トム・ゴールドトゥース氏は、「環境調査や部族との協議を行わずに地役権を認めても、闘いは終わらない」とし、「トランプ大統領が見てきたものをはるかに超えた、大規模な抵抗を予想しています」と述べた(ロイター)。BBCは、この逆境に面しても、スタンディングロック・スー族達は身を引くつもりはないと見ている。

◆出資額トップは日本のメガバンク 広まる「ダイベストメント」
 総工費38億ドルの巨大事業「ダコタ・アクセス・パイプライン」には、17行の大手銀行が投融資する。出資額のトップに立つのは、日本のメガバンクだ。

 国際環境NGO350.org Japan代表の古野 真氏は、「トランプ政権が地球環境や国民の健康より企業利益を優先する中、私たち市民は声をあげる必要があります」と述べる。「地球にやさしい銀行選び」を促す「MY BANK MY FUTURE」キャンペーンに取り組む同団体は、昨年12月にウェブサイトを公開したばかり。そこでは実際に化石燃料や原子力事業にお金を流していない銀行を探すことができ、一般消費者が「ダイベストメント(投融資撤退)」を行えるきっかけを提供する。日本国内では350.org Japanが主体となって各銀行への働きかけを行っているほか、誰もが参加できる支援方法をブログで紹介して支援を呼びかけている。
 
 実際にDAPL建設事業に対する「ダイベストメント」の動きは今、劇的な展開を見せている。陸軍省が建設を認可した同日、初めて2つの「都市」によるダイベストメントが報じられた。NPRによれば、シアトル市は出資銀行の1つ、ウェルズ・ファーゴと18年に及ぶ契約を終了する条例を可決し、デイヴィス市も同様の決定を下したという。米国内の他2都市もそれらの動きに続こうとしており、ニューヨーク市長のビル・デブラシオは、DAPLへの出資金融機関から、市の年金資金の引きあげを検討すると述べている。(ワシントンタイムズ

 来る3月10日には、先住民達による大規模なデモ行進がワシントンD.C.で行われる予定だ。

 「亀の島」北米大陸にもともと住んできた人々、アメリカ先住民。このムーヴメントはコロンブスの大陸「発見」以来、今も続く合衆国による迫害の現実を知らしめている。苦境に立たされながらも、崇高な精神で彼らが立ち向かっているのは、人権侵害、環境破壊、気候変動などの世界共通の問題である。

 「沈黙していることは同意していることと同じ。次のスタンディングロックを生まないためにも、これが彼らの望む形で解決されることを願っています」。青木氏は最後にそう語った。今後日本はどのように向き合うのか、注目したい。

Photo via Ryan Vizzions (Redhawk)

Text by Sara Sugioka