仏極右政党党首がにわかに脚光を浴びる理由 世界の流れとトランプ氏より洗練された手法
イギリスのEU離脱を問う国民投票とアメリカの大統領選挙で立て続けにメディアの大方の予想を裏切る結果となり、グローバルな「有権者の反乱」が選挙のキーワードとなりつつある。この流れを受けて、来年春に行われるフランスの大統領選挙で、極右政党として知られる「国民戦線」のマリーヌ・ル・ペン氏の動きが注目されている。
◆ポピュリスト路線でトランプ氏を称賛
ル・ペン氏は48歳で、「国民戦線」の創設者、ジャン=マリー・ル・ペンの娘だ。現在は同党の党首を務め、2017年のフランス大統領選に出馬するとされている。同党は、EUとユーロ圏からの離脱、移民の大量受け入れ阻止、フランスの文化的アイデンティティの回復などを訴えており、ポピュリスト的な政策を掲げる極右政党と見られている(テレグラフ紙)。
米大統領選でトランプ氏が勝利した後、フランスのニュース番組に出演したル・ペン氏は、トランプ氏が選ばれたことは「不可能とされたことも可能になることを証明した」と称賛し、フランスでも同様の結果があり得ると述べた。(ニューヨーク・タイムズ紙、以下NYT)。
◆支持者拡大。普通の政党路線に転換
エコノミスト誌は、米大統領選の結果が出るまでは、ル・ペン大統領の誕生などたわごとに思われていたと述べるが、今となっては想定しておくべきという考えだ。
同誌は、ル・ペン氏とトランプ氏には、単純化された真実を利用し拒絶と過去への郷愁のうえに政治を打ち立て、エスタブリッシュメントに対抗し白人労働者階級の怒りを代弁するという共通点があると指摘。また、政策的にも保護主義、愛国主義、英EU離脱支持、ロシアに共感という部分で似ていると述べる。ただし、ル・ペン氏は、言葉使いには慎重で、トランプ氏のように「イスラム教徒は入国禁止」とは言わず、移民の「制御不能の波」に終止符を打つと訴える。国境に壁を作るという約束もせず、国境管理の厳格化を訴え、イスラム教を責めるのではなく、フランスの「イスラム化」こそが問題だと主張しており、トランプ氏に比べ、ル・ペン氏のポピュリズムはかどが取れ、より選挙に強いと同誌は分析している。
NYTも、ル・ペン氏が興味を持っているのはトランプ氏になることではなく、人々の怒りを集票に結びつけたその力学だと述べる。ル・ペン氏は、「国民戦線」を過激なわりには大したことのない政党というイメージから、実行力のある組織に変貌させようと忍耐強く取り組んでおり、人種差別、性差別というレッテルを張られることは避けたいと思っている。実際に、昨年には反ユダヤ主義の父親を党から追い出し、彼が与えたイメージの払しょくに努めているという。
NYTによれば、ル・ペン氏の支持者は、左派や社会民主主義の政党を見限った労働者階級がほとんどだが、最近はホワイトカラー層の支持も集めているという。高い失業率や移民の大量流入も国民の不満となっており、ル・ペン氏には追い風となっているようだ。
◆世論調査では、落選予測。しかし可能性はゼロではない
フランスの大統領選は、第1回投票で過半数に届く候補がない場合、上位2名が決選投票に進む。ブルームバーグによれば、主要世論調査会社のほとんどは、ル・ペン氏が決選投票に進むものの、中道右派共和党の候補に敗れるだろうと見ている。米大統領選ではクリントン氏の得票数がトランプ氏を上回ったものの、選挙人の数で下回り落選。世論調査が外れたと批判されたが、フランスの大統領選は得票数で勝者が決まるシステムのため、アメリカのような読み違いはないと世論調査会社は自信を見せている。
また、左派と中道右派の多くのフランス人有権者には、「共和国戦線」として知られる共闘戦略があり、決選投票になるとまとまり、「国民戦線」に対抗する。地方選でも同様の戦略がとられており、ル・ペン氏にはこの壁が立ちはだかるとエコノミスト誌は指摘している。
その一方で、同誌はトランプ氏の勝利がル・ペン氏の選挙運動に新たな勢いを与え、「物言わぬ支持者」を励ますことになるかもしれないと述べる。また、メディアや政治家がアメリカの結果を嘆けば嘆くほど、ル・ペン氏は民意に疎いパリのエリートたちが持つ傲慢さや権力に付け込むだろうとし、同氏の勝利はありそうにないが、絶対ないと決めつけるのは致命的ミスだとしている。