鉄鋼ダンピング巡り中国がニュージーランドに脅し “調査すれば農産物で報復する”
中国の低品質低価格の鉄鋼製品が、ニュージーランドに輸入され問題となっている。地元の鉄鋼を生産する企業がダンピングの可能性を指摘し、調査を政府に求めたが、中国側は調査を開始すれば報復もあり得るとして、ニュージーランドの主要輸出企業に対して自国政府に圧力をかけることを求めた、と現地メディアが報じている。領土問題など、力ずくで言うことを聞かせようとする中国式が、ここでも使われているようだ。
◆安すぎる中国産鉄鋼。地元の不満高まる
ニュージーランドの鉄鋼業は、大量に流入する安価な中国製との競争に苦しんでいる。すでに主要インフラ工事用の資材としても、中国の鉄鋼製品は広く使われているが、地元ラジオ局RNZによれば、中国製には品質を偽った書類を添付した、基準を大幅に下回る粗悪品も多く流通しており、安全上の問題も指摘されている(ニュースサイト『stuff.co.nz』)。
このような現状を踏まえ、地元の鉄鋼会社パシフィック・スティールが安すぎる中国製鉄鋼のダンピングを疑い、ビジネス革新技術雇用省に調査を依頼したのだが、内々に行われたはずの申請の情報が、なぜか中国に伝わってしまったという。その結果、ニュージーランドの主要輸出企業で乳製品を製造するフォンテラ社と、キウイフルーツのゼスプリ社は中国側の関係者から接触を受け、ダンピングの調査を開始させないよう政府に働きかけることを求められたという。中国側は、調査が行われれば乳製品、羊毛、キウイフルーツの輸出に対して報復措置を取る可能性があると示唆したらしい(stuff.co.nz)。
地元メディアのこの報道に対し、当初は政府も企業もその事実を否定したが、後日フォンテラ社とゼスプリ社が、中国側からコンタクトがあったことを認めた。ニュージーランドのキー首相も問題の存在を認め、在ニュージーランド中国大使が鉄鋼のダンピングの調査が開始されたとしても報復はないと「絶対的保証」をくれたと述べ、周囲を安心させようと努めた(stuff.co.nz)。
◆大国の顔色を見るのみ?小国はつらいよ
酪農家団体の議長、アンドリュー・ホガード氏は、中国は同国の輸出市場全体の20%を占めるとし、中国から制裁を受けることは最も望まないことだと述べる(stuff.co.nz)。ゼスプリ社の中国へのキウイフルーツの輸出は今年6月までで昨年の41%増と絶好調で、他の農産品の輸出の不振をカバーする主要マーケットになっている(ブルームバーグ)。ニュージーランドにとって、中国は最大の貿易国であり、中国を怒らせることは自国経済にとって深刻な打撃となることは明白だ。
ラジオ番組のホスト、アンドリュー・ディケンズ氏は、今のニュージーランドと中国の関係を、絵本の世界で仲良しな「クマとネズミ」に例える。同氏は、世界中で値引きした鉄鋼を売る中国は、鉄鋼生産者から仕事を奪い、粗悪な中国製鉄鋼でできた道路を直すためにニュージーランド人に多額の金を払わせていると話す。ダンピングの調査をすれば農産品に報復するという中国と、世界で最初に自由貿易協定を結んだのはニュージーランドであることを考えれば、この扱いはひどいとし、クマはネズミの友達のはずなのだが、と悔しげだ(Newstalk ZB)。
一方アメリカという名のクマは、すでに中国の特定の鉄鋼に450%の関税をかけ、中国の南シナ海のアクセスに対抗するため、軍事力で威嚇しているが、この不仲で不機嫌な2匹のクマたちに食べられないようご機嫌を伺うのが、ニュージーランドというネズミだと同氏は述べる。そして、小さなネズミは、すべてのカードを握っているのは鋭い歯を持つクマたちという世の中の現実に気づかされるのだと悲観的だ(Newstalk ZB)。
◆ついにキウイフルーツが狙われた?
ブルームバーグによれば、中国はゼスプリ社の輸入キウイフルーツに、真菌(カビの一種)感染が見られたと8月初めに発表し、出荷前の検査を強化するよう同社に通知した。ゼスプリ社側は、感染は6月に天津港に到着したごく一部のものから見つかり、食の安全上の問題はなかったとしているが、一時的に輸出を止め、手続きを改善した後に輸出を再開すると発表している。
ニュージーランドはまだ鉄鋼ダンピングについての調査に乗り出しておらず、これが中国による嫌がらせであったかどうかは分からない。ただ、中国は、自国の鉄鋼輸出をダンピングと非難する欧米にニュージーランドが追従することを嫌っているという報道もあり(stuff.co.nz)、大国に睨まれたニュージーランドの苦労は、今後も続きそうだ。