英国のEU離脱、回避する方法も? EUと交渉、総選挙… 可能性をメディア論じる

 イギリスのEU離脱を問う国民投票で、大方の予想に反して離脱52%、残留48%という結果が出た。残留を訴えていたキャメロン首相は、国民の意志を尊重すると述べ辞任を表明。今後イギリスは離脱に向けEUと交渉することになる。その一方で、投票の再実施を求める声が拡大し、メディアもEU離脱を回避する方法を提示している。

◆結果に不満。再投票を求める声が沸き上がる
 CNNによれば、「投票率75%未満で離脱、残留どちらかの票が60%未満であればもう一度投票が行われるべき」という嘆願に、300万人以上の人々がオンライン上で署名している。26日に行われた国民投票では投票率72%で離脱が52%だったことから、残留を求める人々が2度目の国民投票を求めている。

 そもそもこの嘆願は、残留優勢と見られていた5月に、離脱派の活動家が出したもので、本人がCNNのインタビューに「残留派に乗っ取られてしまった」と語るように、皮肉な状況になっている。

 イギリスでは、10万人以上の署名を集めた嘆願は議会により検討されることになっているが、キャメロン首相が以前に2度目の投票はないと明言していること、またこの嘆願を成立させるには、遡って法律を成立させることを必要とするため、現実的に見て議会が動く可能性はないとCNNは報じている。

◆国民投票結果に拘束力なし。離脱は回避できるか?
 ケベック州の独立問題で住民投票を経験しているカナダのグローブ・アンド・メール紙の社説は、離脱派が反移民を煽ったことは確実で、離脱で国民生活がよくなるかのような誤解を招く発言に引っかかった有権者も多かっただろうと指摘。離脱に入れた人々の中には後悔している人もおり、「独立」を約束した怒れるポピュリズムが孤立と不確実をもたらした、と述べる。

 離脱が現実のものとなり揺れるイギリスについて、複数のメディアが国民投票の再実施なしで結果をひっくり返す具体的方法を紹介している。

 まずは、国民投票の結果を無視してしまうことだ。実はこの国民投票には法的拘束力はない。よって、議会で離脱を進めるかどうかを投票で決めればいいという意見が、労働党の議員らから出ている。ただし、「民意に反すれば、次回の選挙で当選する助けにはならない」という指摘もある(ヤフー・ファイナンス)。結局、残留派の政治家の信頼度や権威には厳しい打撃となる可能性もあるだけに、この方法はありそうにないとインデペンデント紙も説明している。

 次は、不信任案、または下院の3分の2が早期の選挙を決議することを通じて、総選挙を行うことだ。法律家のジョー・モーム氏は、ある政党が総選挙において明確な残留支持のアジェンダを掲げて勝利したなら、それは国民投票の結果に取って代わることができると述べる。しかしながら、労働党、保守党どちらも、離脱と残留で党内は割れており、新たな総選挙のために団結することはなさそうだ、とウェブ誌クオーツは見ている。

◆交渉期間は2年。EUの譲歩に期待
 各メディアが最も可能性が高いというのは、EUと交渉し有利な条件を得て、域内に留まることだ。「加盟国はその国の憲法上の必要事項に従い、連合からの脱退を決定し得る」と書かれたリスボン条約50条のもと、次の2年間でイギリスとEUの交渉が行われる。クオーツ誌は、EUからの労働者の多さが有権者を怒らせ、今回離脱票を増やしたと見られているとし、例えば「EU内の自由な移動にいくらか制限を設けて、イギリスは単一市場に残る」という魅力的な約束が引き出せれば、政府が2度目の国民投票で信を問う理由になると述べている。問題は、50条の過程が開始された後もイギリスがEUに残れるかどうかだが、モーム氏は、EUもこのところ実利主義に傾いているため、残る方法も見つかるだろうとしている。

 一方、ヤフー・ファイナンスはこれまでの例から、EUから譲歩を勝ち取ることは可能だと見ているが、人の移動の自由はEUの信条の中心であり、この件でさらなる交渉をすることをEUは望まない、という専門家の意見を紹介している。

◆国の未来がかかるEU離脱。国民投票、本当によかった?
 クオーツ誌は、もしもどの方法もだめなら、最終的にはノルウェーのように非加盟を選び、特別待遇を得て市場の一部に残るという方法もあると述べる。これによりEUの法律や規制に縛られることはずっと少なくなるが、EUが作る法律に対し、自国が適応対象となっても、口出しすることはほぼできなくなるという難点があり、期待できる策ではないことを示唆している。

 グローブ・アンド・メール紙は、そもそもキャメロン首相が自分の再選を確実にするために国民投票を約束したことが騒動の発端だ、と述べている。EU離脱という重要な決断を、はたして議会制民主主義を標ぼうする国が、国民投票という直接民主主義に委ねるべきだったのだろうか。投票でイギリスは、更なる問題を抱えてしまったようだ。

Text by 山川 真智子