年収1000万円以上の「上位中間層」が過去最大…広がる米国の格差 性別、地域、食でも

格差

 22日に公示された参議院議員選挙(7月10日投開票)は、経済政策・景気対策が大きな争点になっている。特に野党候補らは「アベノミクスによって経済格差が広がった」として、格差是正を盛んに訴えている。格差問題は、大統領選を控えるアメリカでも主要な争点の一つになっており、米メディアも盛んにこの問題を報じている。最近では、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、アメリカの格差を生んでいるのは「上位中間層の拡大と富裕化」だと論じている。ほかに、地域格差や毎日の食事に見られる格差を分析するメディアも見られる。

 アベノミクスの目指す所は、アメリカ型の自由競争と自己責任に基づいた「ジャパニーズ・ドリーム」が実現できる社会なのだろうか?だとすれば、「アメリカン・ドリーム」の負の側面とも言える格差問題は、おおいに参考にすべき先例だと言えそうだ。

◆米では「上位中間層」の拡大が格差の主要因か
 筆者は公示日に、長野選挙区の元TBSキャスターの杉尾ひでや氏(民進党)の第一声を取材した。同氏はアベノミクスを「富める者をより豊かにする政治」だとし、そのために格差が広がったと批判した。そして、自らは「弱者のための政治」を目指し、中低所得者層の生活を底上げすることによって、格差是正を目指すと訴えた。

 一方、アメリカの格差は、杉尾氏の言う「中低所得者」よりも2ランクほど上の「上位中間層」の拡大・富裕化によるものだという。この見方を支持するWSJの記事はまず、「リセッション(景気後退)と住宅バブル崩壊後の一連の米経済統計は、一般に上位1%とみられる米社会のほんの一握りの上流階層の状況が改善し、彼らがうまくやっているという見方を裏付けている」と指摘する。そして、こう付け加える。「だが、2007年から09年にかけての金融危機以降の景気拡大は、もっと大幅な上位中間層を豊かにし、人口全体の上位4分の1と残りの所得格差の拡大が進んでいることを示す材料が増えている」

 米無党派政策シンクタンク、アーバン・インスティテュートの外部研究員、スティーブン・ローズ氏が最近まとめた研究論文によれば、近年の「上位中間層」の拡大・富裕化は著しく、1970年に12%だった上位中間層は、2014年には過去最大の30%近くまで拡大したという。ローズ氏は、「上位1%」に富が集中しているということを問題視するこれまでの議論は、現在進行形の「上位中間層と中間層・下位中間層との間の大幅な不平等」を見落としていると指摘する。ローズ氏は「年収10万ドル〜35万ドル(約1045万円〜3660万円)の3人世帯」を上位中間層と定義しており、これは中心的世帯所得の少なくとも2倍で、貧困水準の約5倍の所得にあたる(WSJ)。

◆米でも富裕地域へ人口が集中する傾向
 日本では、都市部と地方の「地域格差」も問題視されている。筆者が長野駅前でインタビューした全国フランチャイズの美容院で働く19歳の男性は、「同じフランチャイズ内でも都会とこっちでは月給が5万円くらいも違う」と嘆いていた。今回の参院選から選挙権が18歳に引き下げられたが、若年層ほど地域格差を実感し、それが地方に暮らす若者の生活満足度にも大きく影響しているようだ。大都市への人口集中と地方の空洞化は避けられないのだろうか。

 アメリカでも、近年、富裕な地域への人口移動が目立っているようだ。スタンフォード大学のショーン・リアドン教授らの分析研究によれば、裕福な地域(他の地域よりも50%以上中心所得が高い地域)に暮らす世帯数は1980年には全人口の7%だったが、2012年には16%に倍増した(WSJ)。

 一方、米ビジネス誌『Fast Company』は、「上位1%」と残りの99%の格差が大きな地域はどこか、という分析記事を掲載している。それによれば、2013年の統計では、上位1%と残り99%の収入格差は全米平均で25倍。地域別で最も格差が大きい「不平等エリア」は、ワイオミング州とアイダホ州にまたがるジャクソン都市圏で、実に213倍という数字が出ている。その他には、ヘッジファンドが集まるコネチカット州のブリッジポート-スタンフォード-ノーウォーク地域(73.7倍)、フロリダ州南部の観光などで潤うネープルス-イモカリー-マルコアイランド地域(73.2倍)などが上がっている。この調査を行ったシンクタンクは、近年のアメリカの格差は、「1%」のセレブたちが集まるニューヨークなどの大都市圏だけにとどまらず、全米に広がっていると指摘している。

◆男女の収入、高所得者層と低所得者層の食事にも格差
 女性の社会進出を後押しする「ウーマノミクス」もアベノミクスの主要な政策に上げられているが、WSJは、収入における男女格差も取り上げている。5月18日の電子版に掲載された記事によれば、教育水準が高い層ほど男女格差が大きいという。同紙が446種類の職業を対象に調査した結果、最も給与・報酬の男女格差が大きかったのは、医師、報酬担当マネージャー、個人向け金融アドバイザーといった一般的に高学歴の人が就く職業だった。

 WSJはその理由を「多くのホワイトカラーは、勤務時間が長く、転職の多い人ほどかなりの金銭的報酬を得られる傾向がある。したがって、子育てのために仕事を抑えるホワイトカラーの女性は報酬が限られてくる。また、職場に根付いた文化も女性の所得を妨げる一因になっていると研究者は指摘する」と記している。こうした傾向は、高学歴ほど男女格差が少なかった1980年ごろとは逆転しているという。同紙はその主因は、製造業の多くが海外に移転したことにより、労働組合に所属する労働者が減少したからだとしている。労組の構成員は圧倒的に男性が多く、団体交渉の対象になる男性の割合が半減した反面、女性はあまり変わっていないというのがその「あまり喜ばしくない」理由だという。

 一方、米ニュース番組『PBS ニュースアワー』は、2000年を境にした米国民の「食事の格差」の変遷を取り上げている。それによれば、5項目における週間の摂取量ベースでの高所得者層と低所得者層の比較は以下のようになっている。

1.野菜=どちらも増えていないが、低所得者層は高所得者層に比べて依然として摂取量が少ない。
2.果物=高所得者層の摂取量は増えているが、低所得者層は変わっていない。高所得者層は、フルーツジュースの代わりに健康的な生鮮果実をより多く摂るようになった。
3.穀物=どちらも増えているが、格差は存在する。白パンやコーンフレークといった精製穀物製品を摂る余裕があるのは高所得者層に限られる。
4.ナッツ・豆類=高所得者層は倍増しているが、低所得者層はそこまで増えていない。
5.清涼飲料=炭酸飲料やスポーツドリンクといった砂糖入りの清涼飲料の消費は全体的に減っているが、低所得者層の方がずっと多く摂取している。

 食事の質や量の格差は、健康や寿命の格差にもつながりかねない。医療保険の問題も絡んで、こうした「食」にまつわる格差問題にも目を向けるべきかもしれない。

Text by 内村 浩介