伊政治を変えるか? 37歳のローマ市長が期待される理由 「首都マフィア」と「五つ星運動」

 6月19日にイタリアの主都ローマで市長選の決選投票が行われ、ビルジニア・ラッジ氏(37)が当選を確実にし、ローマ市長となった。女性であること、若い政治家であること、また「五つ星運動」の候補者であることがイタリア及び欧米諸国のメディアで注目され、ローマかつイタリア政治界に転換をもたらすのではないかという期待が寄せられている。

 ゴミや汚職をはじめ、ローマが長年抱いてきた問題をラッジ氏が解決できるか否かが議論の肝になる。もはや政治界に絶望しているローマ市民はビルジニア・ラッジ氏をどのように見ているのであろうか。

◆男性中心主義の政治界における初の女性ローマ市長
イタリア政治界は男性中心であることでよく知られており、ヨーロッパ諸国と比較すると女性議員数の少なさ、また政府における女性議員の地位の低さなどが目立つ。それ故にビルジニア・ラッジ氏自身がインタビューなどで「女性であること」に焦点を当てないように発言していたにもかかわらず、初の女性ローマ市長となった点が注目を浴びている。政党「イタリアの同胞・国民中道右翼」のジョルジャ・メローニ氏が妊婦であるが故に候補者としてふさわしくないとして、党の男性メンバーから支持を得られなかったことを考えると、ビルジニア・ラッジ氏の当選はどれだけ象徴的な出来事なのか理解できよう。

 一方で、ラッジ氏の当選はジェンダー・バイアスの点以外でも重要な意味を持っている。ラッジ氏の当選は「五つ星運動」にどのような影響を与えるのだろうか。また、ローマ市に圧倒的な改善をもたらすのであろうか。

◆「五つ星運動」のイメージアップ
「五つ星運動」は、2009年10月4日にコメディアンのベッペ・グリッロ(ジュゼッペ・ピエーロ・グリッロ)と、企業家・政治運動家のジャンロベルト・カサレッジオによって結党された。欧州連合からの離脱や政治腐敗への不信などに常に重きを置いている「五つ星運動」がパルマをはじめ、ローマ市以外の街の首長ポストを獲得したものの、今年の5月に汚職問題で告発されるなど、このところ支持率を失いつつある。

 そのような状況の中、ゴミや交通機関など、ローマ市民が抱える具体的な問題の対策に注目しているラッジ氏が「五つ星運動」をイメージアップできるのではないかと、英ガーディアン紙が指摘している。

◆ラッジ氏が直面しているローマ市の問題
 では、ラッジ氏がローマのみならず、イタリア政治界における「五つ星運動」のイメージを改善するために、どのような問題を解決しないといけないのであろうか。

 まずは、ゴミ問題。廃棄物処分業者のストライキが相次ぐ中でゴミ収集が遅れ、ゴミ箱から溢れるゴミはローマ市の日常風景となった。また、交通問題も依然としてローマ市を麻痺状態に強いているのである。10年前から続く3本目の地下鉄C線の工事がなかなか完成せず、バスも異常に混んでいる上にストライキのため運休が相次いでいる。さらに、道路改良工事が遅々として進まないためローマ市民が道路の穴による事故に日常的に遭遇している。

 また、学校や住宅難も依然としてローマ市の大きな問題である。予算不足のため学校の維持管理が不十分であり、親たちがトイレットペーパーをはじめ、学校の整備費用を補助することも珍しくない。また、不景気のため追い立てに遭遇する家族もあるものの公営住宅不足が依然として問題視されている。

 では、なぜイタリアの主都がこのような状況に置かれているのであろうか。答えは「Mafia Capitale(首都マフィア)」である。ローマの前市長、政治家、公務員などがマフィア絡みの汚職に関与している疑惑が浮上し、警察の調査が行われた結果、マフィアへの協力が事実となり、2015年に40人以上が逮捕された。ローマ市政が巻き込まれたこの大きなスキャンダルをラッジ氏がどのように対策するかによって彼女自身ないし「五つ星運動」の未来も決まるといえよう。

◆ラッジ氏は改めてローマ市民の信頼を勝ち取れるのか?
 ガーディアン紙のジャーナリスト、ロージー・スカッメル氏が指摘しているように、ローマ市民はもはや政治家に絶望しており、ラッジ氏が若すぎる故に他の政治家から追放されるに違いないと述べる人が少なくない。「五つ星運動」の躍進を恐れるイタリア首相マッテオ・レンツィ氏(民主党)もラッジ氏に対して非協力的ではないかと考えられる。

 しかし一方で、豊富な政治経験を持つ政治家が汚職のスキャンダルに巻き込まれ逮捕された今日では、経験が乏しい若いラッジ氏こそ期待ができると主張する人もいる。選挙運動ではラッジ氏がローマ市の根本的な問題を解決すると約束した。その約束を果たせるのなら政治家に絶望しているローマ市民と改めて信頼関係を築き直し、「五つ星運動」の支持率を上昇させることができるだろう。

Text by グアリーニ・レティツィア