想定顧客3.3億人、上海ディズニーいよいよオープン 政府も異例のキャンペーンで援護

 上海ディズニーリゾート(SDR)は6月16日の正式オープンに先立ち、5月7日プレオープンした。メインとなる上海ディズニーランド(SDL)では、招待客限定の試験営業が始まった。またSDLに隣接する「ディズニータウン」では販売店やレストランが営業を開始した。SDRはすでに多くの上海市民が訪れる場所になっているようだ。SDRは中国本土では初、アジアでは東京、香港に次ぐディズニーリゾートとなる。今後、東京、香港のディズニーリゾートのライバルになってくるかもしれない。

◆着工は2011年4月
 SDRは、米ウォルト・ディズニー・カンパニーと、上海市政府系の上海申迪集団による合同事業で、2009年に共同建設を基本合意し、2011年4月に着工となった。総投資額は55億ドル(現行レートで約5962億円)で、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、ディズニーが43%、上海申迪集団が57%を出資している。

 世界では6ヶ所目のディズニーリゾートとなる。SDLのほか、2つの直営ホテルと、ショッピング・飲食エリアのディズニータウン、人工湖のほとりの緑地公園「ウィッシング・スター・パーク」などからなる。総敷地面積は390ヘクタールといわれる。

◆正式オープン前からすでに人気スポットに?
 SDLでは7日、スタッフとその家族などの招待客だけを対象とする試験営業が始まった。上海日報によると、初日はおよそ1万人の入場者を迎え入れた。

 またディズニータウンとウィッシング・スター・パークが一般公開された。8日の夕方5時の時点での暫定的な推測では、SDR全体で、約3万人が訪れていたという。ブルームバーグは、正式オープン前にかかわらず、SDRがすでに多くの人を引きつけていることを伝えている。

 上海の地下鉄のある路線が延伸され、SDRに直結する「ディズニーリゾート」駅が4月26日から営業を開始したが、ブルームバーグは、その駅の開業以来、SDRはオープンする前から人気スポットになっている、と語っている。

◆3時間圏内に3億3000万人
 ブルームバーグは、ディズニーのアイガーCEOが、鉄道や車でSDRまで3時間の圏内に住んでいる3億3000万人を顧客として当てにしていることを伝える。同CEOはSDRのプロジェクトを、ウォルト・ディズニーが1960年代にフロリダに土地を購入してテーマパーク建設に使用して以来の、同社の最大の好機と評しているという。

 香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)は、SDLの開園初日のチケットが販売開始から5分で売り切れたことを伝え、このことは、何年もの間SDLを心待ちにしていた中国本土の熱心な客の大きな需要を反映している、と語った。

 SDR、またはSDLに、どれほどの来場者数が見込まれているだろうか。中国の投資銀行、中国国際金融(CICC)のアナリストらの8日付レポートによると、SDLには短期的には年間1500万人の来客が見込まれ、また上海への旅行需要を高めると予想されるという(ブルームバーグ)。

 SCMPは、アナリストらがSDRの客数を年間2500~3000万人と見積もっており、今年中には約1500万人が訪れると予想している、と語る。

 また香港・長江証券のLi Jinアナリストは3月28日付のレポートで、SDRの年間売上高は240~400億元(3979~6632億円)と予想される、としていた(SCMP)。ちなみに東京ディズニーリゾートの2015年度の売上高は全体で4653億円だった(テーマパーク事業は3846億円)。ランドとシーへの入園者数は合わせて3019万人だった。

 AFPは昨年2月の記事で、中国のある専門家が、SDR開業によって、上海の都市GDPの1%に当たる33億ドル(当時のレートで約3900億円)が上海経済に毎年もたらされると推計している、と伝えていた。

◆中国当局もディズニーのコピー商品撲滅で後押し?
 いずれの予想でも、上海経済への大きな効果が期待されている。また、ディズニーのアイガーCEOは昨年、SDRスタッフとして1万人を雇うと表明していた(ブルームバーグ)。

 それだけに中国当局のSDRへの期待感は大きいようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が昨年11月に伝えたところによると、中国の国家工商行政管理総局がディズニーの商標を守るための1年間の特別キャンペーンを始めたそうだ。同局は市場監督管理を担当しており、ディズニーをテーマにした偽造品がオンライン通販などで流通していないかを監視する「緊急チーム」を創設するのだという。上海在住の知財専門弁護士は「外国ブランドや外資企業に対するこうした種類の国家を挙げての対応は非常に珍しい」と指摘したそうだ。WSJは、この動きは当局がSDRを後押ししている表れでもある、と語っていた。

◆香港ディズニーランドには中国本土からの客を失う懸念が
 一方、香港のSCMPは、SDR開業によって、ディズニーリゾートを擁する香港への、中国本土からの旅行者数の減少につながるかもしれないとの懸念があると伝えた。香港政府観光局によると、2014年に本土から香港を訪れた旅行者の20%以上が、香港ディズニーランドへの訪問を旅程に含めていたそうだ。

 SCMPによると、SDRは香港ディズニーリゾートの3倍の大きさだという。

 興味深いのは、SDLの試験営業でアトラクションに「非常に長い行列」ができたことを、SCMPが課題として注目している点である。アトラクションのために1時間並ぶ可能性がある、と来場者が不平を言ったとSCMPは伝えている。これは日本のユーザーにとっては特に珍しくない事態だ。SCMPが注目した理由を考えてみると、香港ディズニーランドでも1時間並ぶのは珍しいということが背景にあるのかもしれない。

Text by 田所秀徳