テロリスト、犯罪組織、武器商人も利用…なぜタックスヘイブンは重宝される?-パナマ文書
「パナマ文書」は世界各地に影響を与えている。アイスランドの首相はパナマ文書が原因で辞任に追い込まれた。ロシア大統領府は、プーチン大統領に近しい人物の活動が報道されたことについて、大統領の信用を失墜させるのが目的だと断じた。中国は、検閲によって報道やネットから関連情報を一掃し、問題の封じ込めを図っている。パナマ文書は、政治家を含む多数の人物が、タックスヘイブンのペーパーカンパニーを利用している実態を明らかにしつつある。おそらくその大部分は合法的なものだろう。だがオフショア金融には、資産隠しやマネーロンダリングなどの温床にもなってきた歴史がある。パナマ文書の登場人物が、大きな関心を集めているのもそのためだ。パナマ文書問題を理解するために、タックスヘイブンやオフショア金融センターがどのような意図で利用されるのかを見てみたい。
◆オフショア金融センターを利用する一番のメリットは匿名性?
パナマ文書の流出元となったパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを大量に設立するなどして、オフショア金融サービスの一環を担ってきた。顧客がタックスヘイブンを含むオフショア金融センターを利用する目的には、(合法的な)税金対策もあるが、そればかりではない。
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)やBBCは、パナマ文書問題の射程を理解するために、タックスヘイブンやオフショア金融センターがどのような意図で利用されるかを解説している。
BBCは、タックスヘイブンには合法的な利用法があるけれども、実際に行われているものの大多数は、資産の実際の所有者の隠蔽(いんぺい)、出所の隠蔽、税逃れを目的にしている、と語る。
FTは、オフショア金融で提供されるサービスのうち匿名性に最も注目している。パナマ文書の流出前から、オフショア金融の薄暗い世界にだんだんと光が差し込むようになってはいたものの、パナマ文書からは、いまだに大量の秘密保持が横行していることがうかがえる、と語っている。
◆資産の本当の所有者を隠蔽する方法
それでは、匿名性はどのようにして確保されるのか。FTは1つのシナリオを通してそれをスケッチしている。
ある顧客が、金銭、不動産、その他何らかの資産について、自分のものだということを隠しつつ保有したいと考えている。銀行に相談すると、銀行はオフショアカンパニーの設立を手配し、その会社名義の口座を自行に開く。その会社はタックスヘイブンで登記されるだろう、とFTは語る。銀行はその会社を設立するために法律事務所を雇うが、モサック・フォンセカのような法律事務所がここで役割を果たすという。
法律事務所がオフショアカンパニーの法人化の事務手続きの手はずを整えるが、さらに、時には、その会社の株式を保有するためのもう1つ別のオフショアカンパニーやオフショアトラストを設立することもあるという。これによって匿名性の度合いが一段と高まる。さらに法律事務所が、自分のところの職員を会社の役員として提供することもしばしばだという。
こうやって設立されるのは実体のないペーパーカンパニーだ。これについてBBCは、資産の実際の所有者を隠蔽しつつ、保有する資産を管理する他は何もしない、と語る。その経営陣は、弁護士や会計士、さらにはオフィス清掃係でさえからも構成されるが、それらの人物は名義を貸すだけで、あとはほとんど何もしないという。
◆なぜ隠すのか、隠さなければならない理由があるのではないか、という疑い
モサック・フォンセカも、こういった業務サービスを行っていたとみていいだろう。英エコノミスト誌は、モサック・フォンセカは、税金とマネーロンダリングの巨大スキャンダルの中心的存在である、と語る。またモサック・フォンセカのような会社(法律事務所)は、外国人が財産を隠す手伝いを専門的に行っている、とも語る。
パナマ文書には大物政治家の名前も登場しているが、その批判者は、彼らは何を隠さなければならないのか、と問うている、とFTは語る。つまり、秘密裏に資産を保有するためにオフショア金融を利用していたのだとすれば、その資産の出所には何か後ろ暗いところがあるのではないか、あるいは税逃れしようとしているのではないか、といった疑いを抱いているということだろう。
◆金の流れに厳しい目を光らせないオフショア金融センターの存在
こういった匿名性を可能にしているのは、オフショア金融センターという環境だ。BBCによれば、英領バージン諸島、マカオ、バハマ、パナマなど、世界中にたくさん存在しており、そこでは銀行の秘密保持能力が非常に高く、金融取引への課税が非常に低率であるか、もしくは無税であるという。
オフショア金融センターにおいても、その金融サービスの大部分は完全に適法だとBBCは語る。だが世界中の脱税者や不正実行者にとってもそれらを非常に魅力的にしているのは秘密保持で、特に、規制機関の力が弱かったり、見て見ぬふりをしたりする場合にはなおさらだという。
BBCは、「汚いカネ」をオフショア金融センターのいかがわしい会社に送り、無記名債券に換えて誰も知らないようなペーパーカンパニーに所有させることで、マネーロンダリングができてしまうことを説明している。
またBBCは、ある政権に対して国際的に課されている制裁を破るのにも、オフショア金融センターの秘密主義の銀行の口座や、ペーパーカンパニーが重要な役割を果たすことを伝えている。FTによると、モサック・フォンセカも、アメリカ財務省が現在制裁対象としている33の個人や企業と取引をしていたことが伝えられている。ただしこれには、制裁リストに入る前に取引を止めていたケースも含まれるそうだ。
またFTは、報じられているところでは、モサック・フォンセカのペーパーカンパニーの買い手には、ラテンアメリカと東欧のドラッグ組織の首領、戦争犯罪者、中東のテロ組織の創設者、アフリカを対象とする武器商人、イランと北朝鮮の核物質の商人が含まれていた、と伝えている。