トランプ旋風はオーソリタリアニズムで理解できる? 恐怖が左右する人々の選挙行動
共和党の大統領選で、物議を醸しだす発言や他候補への挑発を繰り返し、アメリカを危機に陥れる候補だとメディアや識者に批判されるドナルド・トランプ氏。ところがスーパーチューズデーに続き、5日のスーパーサタデーでも順調に支持を集め、人気が衰える気配はない。トランプ躍進の背景を説明する米研究者による調査が、メディアの注目を集めている。
◆トランプ効果で共和党の投票数増加
ワシントン・タイムズ紙(WT)によれば、共和党の予備選の投票数は記録的増加となっている。3月1日のバージニア州では100万票を突破、テネシー州でも80万票をマークし、過去最高を大幅に上回る記録更新となった。他州でも増加しており、投票率の低下がみられる民主党とは対照的だ。
トランプ氏は、自分こそが、民主党支持者と無党派の票を共和党が取り込んでいる主要因だと主張。民主党を犠牲にし、共和党を押し上げてやっていると言い放っている。アナリストも、投票熱を牽引しているのはトランプ氏だと指摘し、この傾向は今後も続くとしている(WT)。
◆トランプ支持者の共通点
選挙戦のスタート時、トランプ支持者は主に彼の主張に共感する、怒れる低学歴の白人労働者階級と言われてきた。しかし、政治コミュニケーション会社、『MacWilliams Sanders』の創設者で、マサチューセッツ大学アマースト校で政治学の博士課程に在籍するマシュー・マクウィリアムズ氏は、収入、教育、年齢、人種、イデオロギーなどが、トランプ支持者の指標とはならないという考察を出し、注目されている(Vox)。
同氏は、支持を左右するのは『オーソリタリアニズム(Authoritarianism権威主義と訳される)』だと主張。オーソリタリアン度が高い人ほど協調、秩序、社会規範の保護に価値を置き、部外者に用心深いのだという。これらの人々は、強いリーダーに進んで従い、他への恐怖を表す。また、白黒をはっきりつけたがる傾向があるうえ、柔軟性がなく妥協しない態度を取り、一度敵味方を決めれば、その結論を変えようとはしない(Vox)。
この要素を用いて、マクウィリアムズ氏はサウスカロライナ州で共和党支持者を対象に調査を行い、オーソリタリアン度が高いほど、トランプ氏を支持する傾向があることを確認した(VOX)。調査結果から、同州の予備選前にトランプ氏の得票率を33%と予測。実際の得票率は32.5%で、予想とほぼ一致した(テレグラフ紙)。
トランプ氏は、国境に壁を作って部外者侵入を阻止する、不法労働者を強制送還する、イスラム教徒は入国禁止にする、などと発言している。このようなトランプ氏の「強力な政治的人物」というレトリックが、オーソリタリアンを活性化してしまったのかもしれない、とマクウィリアムズ氏は述べる。また、オーソリタリアン傾向が低い人でも、自分や家族がテロの被害に遭うかもしれないと言う脅威で、よりオーソリタリアン的になることも指摘しており、恐怖が有権者をよりトランプ支持に向かわせるのだとすれば、今後テロ事件が起きたり、メディアがテロへの注目を高めたりすれば、トランプ氏に有利に働くとも述べている。結論として、選挙戦でのオーソリタリアンの役割は大きく、すでにトランプ支持が上限に達したと見るのは間違いだとマクウィリアムズ氏は指摘し、共和党上層部は、もはや予備選をコントロールできないと見ている。
◆劇薬トランプで政治が再生?
ガーディアン紙では、人種、性別、職業、思想、宗教などにおいて異なるバックグランドを持つ「隠れトランプ支持者」を自称する読者が、トランプ支持の理由を説明している。ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)疲れ、イスラム過激派の脅威、政治と金への嫌悪、不法移民への不満、愛国心など、さまざまな理由が上げられているが、興味深いのは、ほとんどがトランプ氏に手放しで賛同している訳ではないことだ。
多くは政治の現状に幻滅しており、これまでのやり方では何も変わらないと感じ、トランプ氏という劇薬に再生の望みをかけているようだ。ニューヨーク州の男性は、「アメリカの魂を引き裂いているトランプの出馬は、喜ばしいアクシデントだ。いい悪いにかかわらず、これが我々に今必要なものだ」とコメント。ハワイ州の男性も、もう今までのやり方で政治を正すのは手遅れとし、「我々が目を覚まして戦うために必要なショックを彼なら与えられるかもしれない」と述べている(ガーディアン紙)。
テレグラフ紙の特派員、ロブ・クリリー氏は口上手なデマゴーグ(扇動政治家)が生き延びることは稀だとしながらも、トランプ氏は政治家やジャーナリストよりもずっとうまく空気を読むと指摘。本選に進めば、ヒラリー・クリントン氏の支持者も奪えるのではないかとまで述べている。