サウジは同盟国ではない? なぜアメリカは距離を置くのか…存在感を増していくイラン
サウジアラビアは今年初めに47人の大量処刑を行った。その中に反体制派のシーア派聖職者、ニムル師が含まれていたため、怒ったイラン市民がサウジアラビア大使館を襲撃し、両国は国交断絶に至った。これまで同盟関係にあるサウジに甘かったアメリカだが、今回はイランだけでなくサウジにも不快感を表明。専門家からはアメリカとサウジの関係の冷え込みが指摘されている。
◆財政難、戦争でサウジ政府ピンチ
ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)は、サウジアラビアは敵に囲まれていると指摘する。北はイスラム国、南は敵対するシーア派の反乱軍がいるイエメン、東はシーア派が支配し、サウジが最も恐れるライバル国イランだ。サウジはイスラム国とイランの影響を恐れ、国内でもテロリストだけでなく反体制派やジャーナリスト、人権派弁護士などを摘発しており、体制維持にやっきになっているという。
ハフィントンポストに寄稿した政治学者、アリ・アル-アーメッド氏は、サウジ政府は窮地に追い込まれていると述べる。2016年の国家予算は、原油価格の低迷とイエメンでの戦費がかさんだ影響で減少。原油から得る収入は2014年に比べ2015年は23%も減少しているため、2016年も更なる落ち込みが予測されている。政府の経済政策には国民の不満も募っており、外交政策も不人気となりつつあることから、政府の力を誇示し国民の目を別の方向に向けるため、大量処刑を行ったといいうのがアル-アーメッド氏の見方だ。
◆同盟国ではない、ただのパートナー
ニムル師を処刑したことがきっかけとなり、サウジとイランは断交。LATは、これまではイランとの意見の不一致に関してはアメリカがサウジの側についてくれたが、今回は違ったと述べる。ホワイトハウスと国務省は、サウジがニムル師を処刑したことと、イランがサウジ大使館を保護できなかったことの両方に不快感を表明。この反応にサウジの関係者は不満を隠さなかったという。
アメリカの元駐サウジ大使、チャールズ・W・フリードマン・Jr氏は、「オバマ政権以前からアメリカとサウジの関係は悪化していた」とLATの特派員に語り、「両国関係は価値観に基づくものではなく、全くの利害に基づくものだ」と説明。最初から価値観による関係など無理だったと述べている。
アメリカの外交官、デニス・ロス氏も、サウジの人権に対するこれまでの対応や、しばしばスンニ派の過激主義保護に織り込まれる厳格なイスラムの解釈の布教から考えれば、サウジは「同盟国」というより、「パートナー」だと述べている(BBC)。
◆より冷めた、より遠い関係へ
価値観の共有はなくとも、利害関係を同じくしていた両国だが、近年は隔たりが深まっている。まず、長くサウジの原油に依存していたアメリカだが、その必要性は低下している。シェールオイルのおかげで、アメリカはサウジを抜き、世界一の産油国となったためだ(LAT)。
両国は、数十年に渡りイランを脅威と見なしてきたが、アメリカは他の5ヶ国とともに、昨年イランと核合意にこぎつけた。サウジはこれをきっかけに、アメリカとイランが接近するのではないかと考えており、BBCはこれがサウジにとっての悪夢だと述べる。一方イランの核開発を止めたいアメリカは、初期のデリケートな段階にある核合意が、サウジとイランの衝突で害されるのではと心配しており、言うことをきかないサウジに手こずっている(BBC)。
対照的に、昨年の核合意以来、オバマ政権はシリア内戦を終結させることを目的に、「距離を置いた」パートナーとしてイランの協力を求めており(LAT)、アメリカにとってのイランの重要度は高まっているようだ。
LATは、アメリカとサウジはいまでも互いを必要としているが、これまでほどではないと指摘。パートナーではあるが、より冷めた、より隔たりのあるパートナーだと述べている。