東京五輪は6倍…予算超過は世界的に当たり前? 立候補都市に住民投票を義務付けるべきか

 国際オリンピック委員会(IOC)は、ブラジルの深刻な不景気が、開催まであと数ヶ月のリオデジャネイロ五輪に「明らかな」影響を及ぼすだろうとし、コスト削減の議論を始めたことを明らかにした。昨今では、巨額な費用が問題視され、立候補を辞退する都市が増えている。今後の五輪招致のあり方を、海外メディアが考察している。

◆ブラジル財政悪化をIOCも懸念
 2009年に五輪招致を勝ち取った時点では好調だったブラジル経済は現在、1930年代以来最悪の不景気を迎えている、とAPは述べる。今年になって通貨レアルの価値は3分の2になり、GDPも急降下。インフレ率は10%に近づき、失業率も8%に届く勢いだという。政治においては、大型汚職事件でルセフ大統領の弾劾の手続きが始まっており、二重のトラブルにIOCも頭を悩ませているようだ。

 ブラジル側は、準備は着々と進行中としているが、財政がひっ迫していることは明らかだ。リオの組織委は、19億ドル(約2280億円)の運営予算から、そのほぼ30%の削減を計画。IOC側も作業部会を設置し、予算のスリム化の検討を始めている(AP)。

 豪ニュースサイト『news.com.au』は、リオ五輪の在り方に疑問符を付ける人も多いと述べる。ブラジルのストリート・チルドレンを支援する「Task Brazil」の理事、リチャード・ファイン氏は、オリンピックは終われば去って行くものだが、ブラジルが抱える治安、経済、政治上の多くの問題は残されたままになると指摘。政府は住宅などの他の分野に支出を向けるべきだったと述べ、豪華な水泳施設など、五輪後も皆の利益になるとして作られた施設の必要性は低いという意見を述べた。

◆膨らむ開催費用
『news.com.au』は、「五輪には税金を投入するだけの価値があるのか」という記事で、2024年の夏季五輪の立候補都市だった米国のボストンとドイツのハンブルグが、巨額の費用を理由に立候補を取り止めたことを伝えている。両都市の辞退は、大会が終れば使われなくなる会場やインフラに、多額の費用をつぎ込みたくないという都市が増えつつあることの表れだという。

 ブルームバーグ・ビューのコラムニスト、レオニード・ベルシドスキー氏は、ただでさえ莫大な昨今の五輪予算なのに、予算超過は、夏季五輪で平均252%、冬季で135%に達していると指摘し、予算内に収めることのむずかしさを指摘している。東京の場合もこれに当てはまるようで、東京五輪・パラリンピックの運営費は1兆8000億円と当初見込みの6倍になり、公的な財政負担が膨らむ見込みだ。(NHK)一方、時事通信によれば、日銀は経済効果を累積で最大25~30兆円に上るとしており、五輪開催のプラス面を強調している。

◆市民投票義務化で民意の確認を
 前出のベルシドスキー氏は、五輪開催への市民の支持を確認することが必要だと述べ、IOCは立候補都市に賛否を問う市民投票実施を命じるべきだと主張する。同氏によれば、市民投票は2010年大会招致の賛否を問うため、2003年にバンクーバーで行われている。この時は拘束力のない投票ではあったが、賛成派が勝利。五輪は観光の振興、住民生活の利便性向上に役立つとされたが、バンクーバー五輪後、観光客はさほど増えなかった。最大の収穫は交通網がアップグレードされたことだが、しっかりした政治的意思があれば五輪とは関係なく出来た事業で、五輪招致か交通網の整備かを選択肢として当時の住民に提示していれば、投票結果は違っただろうと述べる。

 以後、各地で五輪招致の投票が行われているが、近年は反対派の勝利が増えているそうだ。昔と違い、今は情報も手に入りやすく、おそらく人々が求めるものの優先順位も違ってきたと同氏は指摘。市民投票で示された住民の意見を尊重する都市のみが開催国になるべきで、住民の希望に沿うよう努めることが、オリンピック委員会の仕事だと述べている。

Text by 山川 真智子