中国が威信をかける国産ジェット、ボーイング、エアバスに対抗できる? 欧米メディアの見方とは

 中国国有の中国商用飛機有限責任公司(COMAC)は、初の国産大型旅客機となるC919を公開した。先進的な航空宇宙産業の育成を掲げ、エアバス、ボーイングの二強体制に風穴を開けるべく取り組んできた大型旅客機の開発は、中国共産党の威信をかけた大プロジェクトだ。大きな一歩を踏み出した中国航空産業の可能性と問題点を、欧米メディアが考察している。

◆国家の威信をかけたプロジェクト
 C919のお披露目は、2日に上海浦東国際空港近くの格納庫で、共産党指導者、エンジニア、ジャーナリストら4000人を招いて行われた。愛国的な歌が鳴り響くなか、白、青、緑の配色を施したC919の原型機が「夢は飛び立つ」と中国語で書かれた横断幕の下の赤いカーテンの後ろから登場。格納庫のすぐ外までゆっくりと進む姿は、国営放送によりテレビ中継された(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。

 共産党機関紙の人民日報は、「歴史的躍進だ」と報じており、初の大型ジェット機の開発は、「中華民族の偉大なる復興」を目指す習近平主席率いる共産党にとって、大きな象徴的価値を持つとガーディアン紙は説明している。

◆高まる国内需要
 中国の航空産業は拡大が続いており、ガーディアン紙によれば、今後5年間で空港の数は現在の約200か所から240か所に増加する見込みだ。ボーイング社は、2034年までに中国では新たに7200機以上の商用機が必要になると予想しており、そのうち4630機は単通路機だとしている。座席数が158席から174席となる単通路機のC919は、中国本土で拡大する空の旅の需要を満たすことが期待され、エアバス社のA320ファミリー、ボーイング社の737シリーズと競合することになる(WSJ)。

 COMACによれば、すでに517機の製造を受注しており、そのほとんどは国内からのものだという。この理由を、国内の航空機需要の高まりのほかに、中国の航空会社の航空機購入は政府によってコントロールされているため、とWSJは説明している。

◆国産機ではない?安全面は?
 政府の多大な期待を背負うC919だが、欧米メディアはいくつかの問題点を指摘している。

 実は、C919の開発は2008年に始まり、2014年に試験飛行、2016年には商用化という計画であったが、製造の遅れにより2016年試験飛行、2019年ごろに利用開始と予定は変更されている。これには、国産機とは言いつつも実はエンジンやディスプレイシステムなど、重要部分のほとんどは外国企業や海外との合弁企業に依存していることが大きく影響しているとAPは指摘。航空業界コンサルタントのリチャード・アボウラフィア氏は、西側のサプライヤーが技術供与を行う必要があるため、設計者は何も自由に出来ず、これが開発の妨げとなっていると述べる(AP)。

 安全面に対する懸念は大きいようだ。エコノミスト誌は、航空会社が求める高い水準の信頼性や安全性を確立するのに必要な複雑な生産システムやサプライチェーン構築の経験が、中国にほとんどないことを指摘する。WSJも、航空機の性能に関するデータが少なく、米連邦航空局などの、西側の航空規制局からの安全証明がない中国の航空機を買う事には、海外の航空会社は消極的だろうと述べる。総じて欧米メディアは、国家の後ろ盾があっても、中国の旅客機が二強を脅かす存在には、当面ならないと見ている。

Text by 山川 真智子