株価暴落はメディアのせい?中国、記者を拘束して公開自白 ネットユーザーも取り締まり
中国の株式市場は、時折反発を挟みながらも、全体として下落傾向が続いている。中国政府は株価の下落を食い止めるため、7月以降、約2000億ドル(24.26兆円)の買い支えを行ってきたとされる。その介入措置も、ついには失敗に終わるのではないかとの懸念が膨らんでいる。だが中国はここにきて、方策を転換しつつあるようだ。30日、中国の有力経済誌「財経」の記者が、虚偽の報道で株式市場を混乱させた疑いで公安当局に拘束された。一部報道によると、この拘束こそ、新たな方策の一環であるらしい。
◆「当局が株式市場から政府資金の引き上げを検討中」と書いたら捕まった
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)によれば、「財経」は中国最高の経済出版物の1つ。拘束されたワン・シャオルー氏は、同誌の最も有力な記者だったという。
虚偽報道として問題視されたのは、中国証券監督管理委員会が、国内株式市場の安定化のための政府資金の引き上げを検討している、という同氏の7月20日の記事のようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)が中国国営新華社通信の報道として伝えた。
ワン記者が拘束されたとされる30日の翌31日には、中国国営テレビ・中央電視台(CCTV)で、同記者の公開自白が放映されたとFTは伝える。驚くべき手際の良さだ。FTによれば、中国国営テレビではしばしば、注目を集める事件の公開自白が放送されるという。ワン記者は、「あのようなデリケートな時期に、市場に大きな悪影響を持つ記事を発表するべきではなかった。そのことで国と投資家にあれほど大きな損失を生じさせた。後悔している」などと反省の弁を述べたという。ブルームバーグが新華社の引用として伝えるところによると、同氏は処罰の軽減を望んでおり、当局に協力しているという。
◆株式市場の暴落はメディアがあおったせい?
FTは背景として、株式市場の暴落にメディアが果たした役割に対し、中国当局が断固たる取り締まりを広範囲に行っている、と伝える。平たくいえば、暴落の責任の一端をメディアに負わせようとしているということだろう。
またFTが米チャイナ・デジタル・タイムズの情報として伝えるところによると、6月に市場の混乱が始まった際、中国政府は報道機関に対し、報道についての制約を課したという。それは「詳細な分析を行うな、市場の動向について推測したり、評価したりするな」「パニックや悲惨を誇張するな。『暴落』『乱高下』『急落』といった感情を刺激する言葉を用いるな」というものだったという。
香港大学のメディア研究機関「中国メディアプロジェクト」のデビッド・バンダースキー氏はFTに、「この拘束は、彼の記事の事実性ではなしに、その政治的影響についてのもの。報復のように見える」と語り、内容が問題となったこれまでのジャーナリストの拘束のケースよりも、はるかに心配だと指摘したという。
◆「買い支えはもうやめる、かわりに邪魔者を探し出すのに注力する」は本当?
中国当局のこの行動の理由を、FTのもう1つの記事ははっきりと示している。中国政府高官筋によると、中国政府は、大規模な株式買い入れによって株式市場を支える努力をやめることを決定した。そのかわりに、「市場を不安定にした」容疑のある人物の発見と処罰の取り組みを強化する、というのだ。事実ならば、抜本的な方針転換といえよう。
この新方針はすでに一部始まっているようである。先週の中国株式市場の急落は、世界各地の株式市場の総崩れのきっかけとなったが、その原因の一端は、当局が買い支えをやめる決定をしたようだとの観測にあったという。FTによると、中国の国有投資ファンドと投資機関の「ナショナルチーム」は、株式市場の買い支えに、この2ヶ月間で約2000億ドル(24.26兆円)を費やした。その「ナショナルチーム」が、株価下落の際にも存在感を示さなくなっていたのだ。
しかし中国政府は1週間以上傍観した後で、27日の取引時間のラスト1時間になって、大規模な買い入れを再開した、とFTは伝える。だがこれは、今週の「抗日戦勝記念」軍事パレードを控えて、「有望な市場環境」を醸し出すのが狙いだったと、トレーダーと当局筋は語っているという。ブルームバーグも同様の見地から、この介入は、軍事パレードがどんな形でも損なわれないようにするための、より広範囲な圧力の一環だったと伝えている。FTによれば、規制当局の高官筋が、これは例外的な措置で、政府はこれ以上の大規模な株の買い入れをやめると断言しているという。
いくら公金を注入しても、砂地に水が吸い込むような状況では意味がない、ということなのだろう。高官筋によると、当局は今後、国の緊急援助を利用して利益を上げた、あるいは市場を支える政府の努力を邪魔したと考えられる個人と機関を捜査し、処罰することに焦点を絞る計画だという。また海外勢力の排除を主張する声も当局内にあるという。
中国指導部は株式市場救済の取り組みで、あまりに多くの情報を公にしてしまい、対応を誤ったと考えている、と当局高官は会合で述べたという(FT)。その点からすると、買い支えをやめるというのは表向きで、その実、カモフラージュした形で継続するのではないかとも考えられる。
◆中国指導部の面目を保つため、ネットユーザーも厳しい取り締まりの対象に?
中国当局が取り締まりを強化しているのは、報道機関だけではない。一般のネットユーザーもその対象になっている。中国の公安当局は30日、株式市場の混乱、天津の爆発事故などに関して、ネットにデマを流した197人を処罰したとの声明を発表した。WSJが伝えた。
問題とされたデマの内容は、「株価暴落のせいで北京の男性が飛び降り自殺をした」「天津の爆発事件で少なくとも1300人が死亡した」など。後者のデマに関しては、これを広めた18歳男性が罰として5日間拘置された、と天津警察が先だって発表していた(WSJ)。
声明では、彼らはデマを流すという行為によって、「社会と国民を惑わせ、恐怖感を引き起こし、また広め、さらには機会に乗じて、(共産)党と国の指導部を攻撃するため、悪意をもってうわさをでっち上げさえした」とされている。
WSJはこの件の背景について、中国政府は景気の減速と荒れ狂う株式市場の管理に対し、国民からの厳しい吟味にさらされている、また、天津での有害な化学物質倉庫の爆発についての国民の怒りにも直面している、と伝える。社会不安をあおった犯人捜しには、軽率な批判を抑え込むという意図があるのかもしれない。
BBCは、中国はネット上の情報を厳しく統制しており、これまでにも、うわさを広めたかどでネットユーザーを訴追している、と伝える。中国当局は2013年、ネットでうわさを広めることに対して、最長3年間の拘禁刑を課す法を施行したと伝える。これは、投稿したうわさが500回以上再投稿されたか、5000回以上閲覧されると、処罰の対象になるというものだ。