マレーシアで怒りの大規模デモ 経済発展の裏に残る人種間不公平、言論封殺…
マレーシアのクアラルンプールで、ナジブ首相の汚職疑惑をきっかけに、2日間に渡り大規模デモが行われた。デモの目的は首相の退陣を求めることだったが、その背景には、マレーシアが抱える社会問題への国民の怒りがあったようだ。
◆多民族国家で事実上の一党支配
マレーシアは、多数派であるマレー系と、華人系、インド系から構成される多民族国家で、イスラム教徒のマレー人を支持母体とする統一マレー国民組織を中心とした与党連合の国民戦線が、長らく政権を把握している。天然資源にたよる経済から工業化を進め、現在では東南アジア第3位の経済規模を持つまでになった。
1980年代には、当時のマハティール首相のもと、日本に学べという「ルックイースト」政策で多くの日本企業が進出し、現在も日本との経済関係は強い。また、2006年から連続8年間、「ロングステイ希望滞在国」世界第1位となっており(ロングステイ財団調べ)、老後を海外で過ごしたいという日本人からも人気の国だ。
◆デモは新しいマレーシアのため
今回のデモのきっかけとなったのは、国営投資会社1MDBとつながりのある団体から、ナジブ首相の口座に7億ドル(840億円)が渡ったという疑惑だ。これに対し首相は、資金は中東の寄付者からのもので、党やコミュニティのために必要な金だったとし、私的目的で受け取ったのではないと説明した(ブルームバーグ)。
8月31日の独立記念日を前にした週末、「ベルシ(Bersih)」というクリーンで公平な選挙を求めるグループに組織され、黄色いシャツを来た25万人のデモ参加者(ベルシ発表。警察は土曜日のみで2万5000人と発表)が、独立広場近くに集結。首相の退陣を求めてデモを行った(ブルームバーグ)。ロイターによれば、過去のデモでは催涙ガスや高圧放水砲で警察が鎮圧するなどの場面もあったが、今回は平和的に行われたようだ。参加者の1人は、デモが一夜にして変化をもたらすとは思わないとし、「新しいマレーシアを作るための努力の一部」と述べたという(AP)。
◆人種間の不公平と言論の自由
今回のデモの背景には、積もり積もった国民の不満があったといえる。BBCは、ナジブ首相はもともと2009年の当選以来、長らく続いているマレー人優遇政策を緩和し、経済を透明で功績に基づくものにすることを約束したと述べる。しかし、多くの人種的少数派は、現在のマレーシアは能力主義社会には程遠く、国立大学進学などにも人種的な壁があると批判。首相は党の古参の政治家を説得できず、人種間の不公平を是正できなかったようだ。
首相は、ソーシャルメディアの活用にも積極的で、特に中国語のFacebookアカウントを通じ、華人有権者との交流にも力を入れていたとされる。ところが、汚職疑惑が出た後、政府は1MDB事件を報じるサイトへのアクセスをブロックし、「デマ屋」は攻撃すると宣言(BBC)。「ベルシ」のウェブサイトへのアクセスも禁止した(ロイター)。マレーシアには、政府を侮辱したり、意義を唱えたりする者を罰する法律が存在。ナジブ氏は当初これを廃止すると約束したが、今やそれも強化されようとしているとBBCは報じ、言論や報道の自由に厳しい制約があることを示唆している。
◆増税と景気低迷
国民をさらに怒らせているのが、負担の増加と経済低迷だ。ナジブ首相は、食料品や燃料への補助をカットし、与党の反対を押し切って、消費税を導入した。正しい判断だという意見もあったが、汚職疑惑が出てからは、国民に負担を強いるよりも、無駄や汚職の摘発で歳入を増やすという選択もあったはずと批判を受ける(BBC)。また、エネルギー価格の低迷でガス、石油の輸出による歳入が減っていること、自国通貨がドルに対し17年ぶりの安値を8月につけたことで、首相にますますプレッシャーがかかっている、とロイターは述べている。
海外各紙は、今回のデモの参加者の多くはマイノリティと都市部の少数のマレー人だったと報道。APは、デモが許されたのは、マレー人の参加が少ないと政府が読んだためだという一部のアナリストの意見を報じている。しかし、政治アナリストのイブラヒム・スフィアン氏は、多くの農村部のマレー人が通貨安と景気低迷に不満を感じていると指摘した。デモに参加したマレー人男性は、「マレー人がデモに参加しないからと言って、ナジブに怒っていない訳ではない。次の選挙まで待てば、分かるだろう」と語ったという(ブルームバーグ)。