豪潜水艦契約、日本がようやく重い腰上げる 「そうりゅう」受注失敗の可能性で危機感

 オーストラリア海軍の次期潜水艦の選定競争で、そうりゅう型潜水艦を売り込んでいる日本の官民連合が、26日に南部アデレードで説明会を開く。同地はオーストラリア造船業の中心地で、雇用確保のため、野党や労働組合が次期潜水艦の現地生産を強く求めている。ロイターによれば、日本側は説明会で、現地企業と協業する用意があることをアピールする予定だ。

 豪次期潜水艦の契約を巡っては、日本とドイツ、フランスが競合している。性能面とアメリカ主導のアジア太平洋の防衛戦略上、当初は日本の「そうりゅう」が有利とされてきたが、最近は完全現地生産を熱心にアピールする独仏が巻き返している。現地メディアなどは、これに危機感を感じた日本がようやく重い腰を上げたと注目している。

◆「完全国内製造」を求める豪世論
 オーストラリア海軍は、2030年ごろに現行の国産「コリンズ級」を世代交代させる計画だ。次期潜水艦候補には、静粛性や航続距離で通常型潜水艦としては世界最高性能とされる「そうりゅう」が最有力候補に上がっていた。日米と歩調を合わせて中国に対抗しようと模索するオーストラリアにとっては、既に海上自衛隊で米海軍との共同作戦に対応した運用がされている点も魅力的な要素だとされている。

 しかし、6隻から12隻の新造艦を建造する500億豪ドル(約4兆5600億円)ともいわれる巨大プロジェクトには、武器輸出に実績のあるドイツのティッセン・クルップ社(TKMS)、フランスの国策企業DCNSも豪政府の「競争選定プロセス」に指名されている。豪政府が求めているのは4000トン級の航続距離の長い通常型潜水艦で、TKMSは「タイプ216」(4000トン)、DCSは「バラクーダ級」(5300トン)を売り込んでいる。日本は防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の官民連合が、そうりゅう型(4200トン)で戦後初の本格的な武器輸出を目指す。

 豪政府は当初、「そうりゅう」の輸入を目指していたが、雇用喪失を懸念する造船労組や野党・労働党の猛反対に遭った。TKMSとDCNSはそれに乗じて豪州にロビイストや国防専門家、広報担当者、技術者からなる事務所を立ち上げ、受注活動を進めている(ウォール・ストリート・ジャーナル紙=WSJ)。現在、豪政府は日独仏勢にそれぞれ、「完全にオーストラリア国内で建造」「完全に海外で建造」「国内・海外の両方で建造」の3つのパターンで、プランを提示するよう求めている。

◆今や本命はドイツ?
 積極的に「現地生産」をアピールする独仏勢とは対照的に、武器輸出に不慣れな日本勢は「政府主導の秘密主義のせいもあってか動きが鈍く、受注に失敗する可能性が出てきた」とWSJは見ている。三菱重工と川崎重工は、豪政府主催で3月に開かれた潜水艦計画の会議も、アデレードで7月に開かれた議会公聴会も欠席している。独仏勢はともに出席して猛アピールした。また、TKMSは日本勢が沈黙を保っている間に、「タイプ216」が選ばれれば、造船関係の現地雇用を増やし、オーストラリアをアジア太平洋の潜水艦建造の拠点にすると豪側に約束した。WSJは、「豪州の多くの有力議員は今では同社が本命とみるようになっている」としている。

 日本勢による26日の説明会開催は、こうした状況に危機感を感じた日本政府が、ようやく重い腰を上げたことの表れだと見られている。説明会では、防衛省、経産省、三菱重工、川崎重工の幹部らによる官民連合の代表団が、地元議員や造船企業関係者に「協業」を提案する見込みだ。

 既にこれに先立ち、草賀純男駐豪大使と三菱重工関係者らによる代表団が今月11日、首都キャンベラで造船都市アデレードがある南オーストラリア州選出議員らと会合を開いている。出席した与党・自由党のマット・ウィリアムズ議員は「(日本側)代表団に、将来の潜水艦計画にオーストラリアの産業が最大限に参加することの重要性と、なぜ私が南オーストラリア州の雇用確保のために戦い続けているかを訴えた」と、地元紙『ザ・オーストラリアン』に語っている。同議員は、会合は「建設的だった」と述べ、日本側の反応に手応えを感じたようだ。

◆外交専門誌は最終的には日本に軍配と予想
 アジア太平洋の外交誌『ザ・ディプロマット』は、これまでの状況を俯瞰し、「日本はオーストラリアの潜水艦契約を勝ち取れるか」と題した記事を掲載している。同記事は、契約獲得の鍵は、潜水艦の性能だけでなく、「南オーストラリア州の雇用確保の要求にどれだけ応えられるか」だとしている。与党自由党も次期選挙に向け、同州の有権者の意向を重視していると見られている。

『ザ・ディプロマット』によれば、日本は現地生産に向け、豪州で実績のあるスウェーデンのサーブ社に協力を求めることを検討中だという。また、ロイターは、イギリスの軍需メーカー、バブコック・インターナショナルとBAEシステムズが、三菱重工と川崎重工に協力を申し出たと報じている。バブコックは現行の豪潜水艦のメンテナンスを手がけており、BAEは現地で4500人を雇用している。

『ザ・ディプロマット』は、日本勢の対応は遅れているものの、「最終的には、アボット首相は高い政治的リスクを犯してでも、日本と契約しようとするだろう」と見ている。その理由は政権が支持するアメリカ主導の「アジアの再バランス」にとって、米海軍の信頼が厚い「そうりゅう」の採用がベストだからだとしている。

Text by 内村 浩介