クラシック音楽ブームの中国、豪華ホール建設ラッシュ 聴衆マナーには内外から苦言

 経済発展に伴い、クラシック音楽の人気が中国で高まっている。大都市はもちろん、地方都市にも続々と豪華なコンサートホールが建設され、海外から招いた一流音楽家のパフォーマンスに人気が集まっている。国内でも、高度な音楽教育を受けた才能ある若い世代が登場。世界有数のクラシック音楽市場になると予測される中国だが、聴衆のマナーには問題が多いようだ。

◆豪華な音楽施設が続々誕生
 香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP、8月4日付)は、中国人は、経済的繁栄とともに文化を渇望するようになったと説明。クラシック音楽は人気で、ここ10年の間に、地方政府は大金を投じてコンサート施設を建設し、世界でもトップクラスの音楽家や楽団が招かれるようになったと述べる。

 ドイチェ・ヴェレは、山東省の省都、済南市を演奏旅行で訪れたドイツ国立ユース・オーケストラを取材。音楽学校もプロのオーケストラもない都市なのに、オペラホール、劇場、そして1500人収容で高価なオルガンまで装備したコンサートホールを持つ、最新の施設があると述べる。

 こんな話を聞くと、バブル期に豪華な箱ものを無駄に建設したものの、人口減少や低成長で、今や維持管理に頭を悩ませる日本の自治体と重ね合わせてしまうが、中国の事情は違うらしい。シドニー交響楽団のロリー・ジェフス氏が「将来的には世界で最も重要な市場になることは議論の余地がない(豪SBS放送)」と述べるように、中国ではクラシック音楽は成長産業だ。商業的魅力も手伝ってか、地方都市は、最高かつ最大のホールを建設し、文化と音楽の中心になるため最良の状態を作ることを競い合っており、今も中国全土で数百のホールが建設中ということだ(ドイチェ・ヴェレ)。

◆音楽教育も熱を帯びる
 中国では、音楽を学ぶ人口も増加している。シドニー交響楽団のジェフス氏は、中国でピアノまたはバイオリンを習っている人口は、6000万~1億人と推定。一人っこ政策の結果、ピアニストのラン・ラン、チェリストのヨーヨー・マなどの有名音楽家を目標に、1人の子供に多大な期待がかけられると述べ、ソロ向きに養成された子供達は、高度なスキルはあっても、合奏の能力に乏しい場合もあると同氏は説明する(SBS)。

 そこで、昨年9月に創設された上海オーケストラ・アカデミーは、ニューヨーク・フィルハーモニックやシドニー交響楽団に才能ある若い音楽家を派遣するプログラムを開始し、オーケストラでも活躍できる中国人音楽家の育成に努めている(SCMP、5月19日付)。年配の客が目立つ欧米とは違い、中国ではクラシック・コンサートに魅かれる若者が多いとSCMPは述べており、若い中国人音楽家の活躍は、さらなる市場の拡大に貢献するに違いない。

◆マナーはまだまだ発展途上
 さて、クラシック音楽人気の高まりとともに、中国の聴衆のマナー向上を求める声も上がっている。ドイチェ・ヴェレは、ユース・オーケストラのコンサートで、携帯電話の電源を切ることや撮影の禁止などが告知されても、ルールを守らない客がいたことを指摘。違反者にはレーザーポインターが当てられたが、カメラのフラッシュやクリック音は止まなかったと述べた。

 SCMPによれば、演奏中にいびきをかく、咳払いをする、かばんのジッパーを開ける、チラシでカサカサ音を立てる、演奏中退席するなどのマナー違反が各所で報告されているらしい。また意図的ではないが、演奏中や、楽章の切れ目で拍手をする客も多く、西洋音楽におけるエチケット教育の必要性も指摘されている。

 北京の音楽評論家、ケ・フイ氏は、「中国本土の人にとっては、すべてが新しい経験で、他の聴衆や音楽家、そして劇場のスタッフが教えてあげるべき」とし、変化には時間と忍耐が必要だと指摘している(SCMP)。

Text by 山川 真智子